あなたじゃないの。

ぴんくのーと

第1話 あなたじゃないの。

私は赤実坂あかみざか千沙羅ちさらのことが好きだ。

高校3年生の時、誰もいない公園でギターを弾きながら歌っているのを見られてしまった。

それが出会いだった。

彼は私を見ると駆け寄ってきて、「上手だね」と褒めてくれた。

その笑顔がいつまで経っても忘れられなかった。

でもそれが何処の誰だか知らぬまま時は過ぎ大学入学。

そこで同じクラスになり、初めて名前を知ったのだ。

彼は私のことを覚えてくれていた。

私が大学にギターを持ってきていたからだろう。

何回か話したし、連絡先も交換した。

なのに、一向に進展する気配が見られない。

私がコミュ力ない人間なのは理解しているし、奥手女子という事も理解しているが、何度も視線を送っているし、向こうだって話しかけてくれる。

なのになんで。

無理、しんどい。

そもそも彼に彼女が居るのかわかっていない。

それが一番しんどい。

あー、この気持ちを歌にぶつけてみよう、ギターにぶつけてみよう。


誰もいない教室で、また密かに、菜彩なあやしおりは弾き語りをするのだった。


そのはずだったのに。


「スゲー!」


あ、見つかってしまった。

終わったー。

私の大学ライフが終わった。


「弾き語り生で見んの初めてだー!」


目を輝かせながらこちらを見つめる見知らぬ男。

というか少年さがあるな。


「ギター持ち歩いている人見たことあんだけど、もしかして?」


「かもです。」


「そっか!俺は1年の荒河あらが刻晴こうせいだ!そっちは?」


「私は1年の菜彩しおりです。」


「よろしくなー、しおり!」


「よろしくです。」


あー、ここに来てほしかったのはあなたじゃないの。

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