第31話 ファミリー
「なるほど、そういう作戦に出たか。食料はあと二カ月分はあるが、余裕をもって一カ月後から作戦を開始しないとな」
ヒミカがまだ安静にしているイブとニーナを横目に見ながら、俺に話しかけてきた。
「もうレベル30になってますし、魔法耐性のスキルも身につけました。戦えませんか?」
俺はここ一週間の特訓で、戦闘については、かなり自信がついて来たので、ヒミカに逆提案してみた。
「この前エルフと戦った感触だが、レベル40は欲しい。レベルの上りはだんだん遅くなるから、これから一カ月でギリギリ間に合うかどうかだがな」
ヒミカは胸の大きさの割には慎重だ。これだけの爆乳なので、もっとイケイケなのかと思っていた。いや、待てよ、乳は関係ないか。
「分かりました。一生懸命頑張ります」
「桐木は訓練すればするほど動きが良くなる。レベルアップ以上の効果だ。何か武道でも嗜んでいたのか?」
「努力が必ず実るスキルがあるからだと思います」
「頼もしいやつだな。お前は我らの救世主かも知れぬな。
レベル100の残りの三人の男性のことを言っているのだと思う。
「ありがとうございます」
俺にはもう一つ努力していることがある。
ちなみに、俺の性生活だが、現地人は性に非常に積極的で、ルミは死神の俺と一日六分の一本勝負、アナが毎日しないと魔力が落ちてしまうという理由で、一日三十分一本勝負の合計二回の抜きが入る。淡白な俺はこれでもうお腹いっぱいだ。
女子高生たちとは、毎日一緒の部屋で寝るようにしている。今のところはそれで十分とのことだ。絵梨花が俺に興味を失うかと思ったのだが、俺に沢山の女性がついているのが効いているのか、俺のことを大好きのままでいる。
俺が大切な女たちのことを考え、夜の修行も一生懸命やろうと決意していると、珍しく市岡の野郎が話に加わって来た。
「ヒミカさん、俺と佐竹も訓練に参加させてくれませんか?」
「お前たちがか。さては、そこの地上の女と恋の予感を覚えたか?」
「そ、そんなんじゃないです。エルフが攻めて来たときに何も出来ないのは悔しいのです」
そういえば、イブは藤崎先生に雰囲気がそっくりだった。市岡の野郎、相変わらず、年上の女好きだな。
「ふふふ、そういうことにしておこうか。義弟たちに頼んでやってもいいが、私よりも厳しいぞ。まあ、殺しはしないがな」
「お願いします」
佐竹も身を乗り出してきた。そういえば、佐竹はお嬢様系に弱かった。絵梨花もお嬢様系だが、本物の貴族のお嬢様であるニーナには、さすがにお嬢様度では負ける。
女を取り合う仲になると、男たちは本人が思う以上にギスギスするものだ。市岡、佐竹がイブとニーナに興味を持つことはよいことだ。
そうなると、問題は美香たち市岡ガールズだ。彼女たちの中で市岡の人気が大暴落しており、あからさまに俺に接近しようとしていて、絵梨花たちとの間に不穏な空気が流れているのだ。
特に美香はチャームを持っているので、絵梨花たちからのマークが厳しい。彼女たちが市岡を捨て、俺に近づいてくる理由は言うまでもなく、市岡といっしょになったら、ダンジョンから抜け出せないためだ。
ダンジョンは森、湿地、草原、砂漠、墓、遊園地、湖、海、氷河、王宮の十階層から成り、地下とは思えないほどバラエティに富んでいるが、それでもやはり地上の魅力には敵わない。
そのため、彼女たちの中で、市岡の株が大暴落し、俺の価値が爆上がりしたというわけだ。
社会人のとき、ロンドンに十年間駐在したことがあるが、駐在が決まった途端、話をしたこともない女性社員から声をかけられたり、贈り物をもらうようになった。本気だったかどうかは分からなかったが、女性とはそういう生き物なんだと思った。
ちなみに、死神の俺は相変わらず市岡に憑依しているが、市岡に一向に死ぬ気配はない。以前は嫉妬深い女たちの面倒を見て欲しかったので、死ぬと困ると思っていたが、今は市岡がまったく機能していないので、正直、市岡の命はどうでもいい。
地上の女に興味を見せる市岡を蔑みの目でちらりと見て、美香が絵梨花にささやいた。俺は聴覚がかなり上がっているため、難なく会話の中身を聞くことができた。
「ねえ、絵梨花、私も仲間に入れてくれないかな」
美香が遂に絵梨花に直談判したのだった。なぜ俺に直接聞かないのかは不明だ。
「委員長、あなた市岡くんが好きだったんじゃないの?」
「あの人といても、将来ないから」
直球だ。直球すぎる。美香は実は利に聡い女だったのか。金も容姿も家柄も兼ね備えていた市岡が、ただのカッコいい高校生になってしまった途端に、ばっさりと切り捨てるとは。
「でも、あなた、桐木くんと接点あったっけ?」
「桐木君とはここに来る前からよく話したわよ」
二、三回話しただけだ。よく話したとは絶対に言えないだろう。だが、高校生のとき、俺は美香に好意を持っていた。今も残滓があれば、チャームにかかる可能性はある。
「それに、今から思えば、詩央には何度も殺されかけたわ。私が今、生きているのは桐木君のおかげだと思うの。ここにも暖かく迎え入れてくれたし、私は桐木君への感謝の気持ちで一杯だよ」
美香は俺を好きだと自己暗示をかけているのではないか。よりよい遺伝子と交わって子を産むための女の本能だと思う。金持ちの男にいい女が付いているのはこれが理由だ。これで召還の呪縛が解けるようなら、愛とは何かを一度真剣に考えてみたい。
「桐木くん、美香があなたを好きだって言って来ているんだけど、桐木くんは、美香のこと、少しでも好きなのかな?」
絵梨花も無下なく断ることはできなかったようだ。俺に判断を委ねてきた。
「分からない」
「分からないってどういうことよ」
(絵梨花、不機嫌だな……)
「高校生のとき、委員長がウサギの世話をしていたときの横顔が印象に残っているんだ。チャームが効くかもしれない」
美香が鼻息荒く割り込んできた。
「絵梨花っ、試してダメだったら諦めるから、一度だけチャンスを頂戴。私も地上に出たいのっ。お願いっ」
「仕方ないなあ。桐木くん、いったい何人に気があるのよっ。もうこれ以上あちこち気移りしないでねっ」
(今気移りしたのではなく、二十五年前のほんの一瞬の出来事なのだが……)
すぐにチャームを試すことになったが、俺はあっけなく美香のことも愛おしく感じるようになってしまった。そのため、その日の夜、無事に合体の儀式を執り行い、美香も桐木ファミリーの一員となった。
クラスの女は残り三人だが、さすがに名前も知らなかったこの三人とは、何も起きないだろう。それに彼女たちはチャームが使えない。やはりノーチャンスだと思う。
「桐木、お前はまれにみるスケコマシだな。私やカナや他の転移者は、さすがに子供のお前を好きになるにはハードルがかなり高いが、地上の男たちを集める前に、お前に恋してしまうこともあり得るかもな。実に恐ろしい男よ」
ヒミカたちは長い時間を生きているので、ゆっくりと構えているように思う。
ただ、ヒミカたちとは実力が違い過ぎて、修行中も普段も俺は完全に子ども扱いされているため、彼女たちとはあり得ないと思うことすらなかった。それに、彼女たちは今の俺には怖すぎて、俺の恋愛対象にはなりえない。二人の乳は気になるが。
だが、俺がレベル100になったらどうなるか? あっちの方の技術が花開いたらどうなるか? 未来は誰にもわからない。
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