第33話 古代戦士 タイタン

『ツイゲキハ シナイ ヨクキイテクレ ニンゲンドモ イヤ デニットト ナカマタチ...』


 タイタンスクイッドはダンジョンの入り口手前で動きを止めた。そして、俺たちの脳に直接話しかけてきた。


 つぶらな瞳で、じっと俺たちを見つめてくる。その瞳から目が離せなくなる。そんな力を感じた。


『ワタシハ ダンジョンノ ソトニモデレル オマエタチヘノ ツイゲキモ カノウダ オマエタチガ ソコノエルフヲ ミステタラ ツイゲキノ テヲ ユルメナカッタ ダロウ ダガ オマエタチハ イノチガケデ タスケタ ダカラ ムヤミニ コロサナイ』


 奴はそう言ったあと、ダンジョンの外に出た。そして、少し俺たちの後を追ったのち、またダンジョンの中へと戻って行った。


 ダンジョンの外にもいこうと思えばいつでもいけるのだということを示したのだろう。


 そしてタイタンスクイッドは更に...。


『ワタシガ コノダンジョンカラデレバ ワタシハ オマエタチノ ノウナイニ チョクセツ ハナシカケルコトハ デキナイ コトバデツタエルシカ デキナイ コトバハ ワタシヲ カンシ シテイルモノニ バレル』


 つぶらな瞳をくりくりと動かし、俺たちの脳内に直接語りかけてくる


 そして最後、俺たちに『ダカラ イチドワタシヲシンジテ ダンジョンノナカニ モドッテキテホシイ』と言ってきた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「バリー馬車を止めろ...


 レバルド、ズリー、そしてゼファーは、俺の言葉に大きく目を見開き、俺の顔を見つめた。


 バリーは「ええだか?主人?ほんとうに?いまがにげるちゃんすだぞ?」と、俺に確認を求めてきた。


 確かにおかしな話だ。でも、何となく信じられる。ただ、俺の命だけの話じゃない。他の皆はどう思っているんだろう...。


「ああ、一度止めてくれ。奴は今...追ってきていない。奴はダンジョンから出られることを証明してみせた。だが奴は、自分からダンジョン内に戻った。追って来ようと思えば追ってこれるにもかかわらずだ」


 俺がそう言うとバリーは、「ランド、メリー、どまるんだ!」と言いながら手綱を引いた。


「ブルルルウン」


「ヒヒィィィィン」


 2頭は足並みをそろえて、ゆっくりと止まった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 馬車が止まり、奴が追ってこないことを確認した。俺は再び皆の顔を見つめ、「俺は...信用できる話だと思う。だけど...皆はどう思う?」と問いかけた。


 するとマゼールが、真っ先に意見を述べた。


『私は引き返すことに賛成です。ずっと追ってこられたら、消耗戦です。ティーブリッジまではここから2日以上はかかります。ランドとメリーが休憩も無く走り切れるとは思えません』と。


 続いてレバルドが、「わしも引き返すことに賛成ですじゃ!あのスクイッドの化け物は狙えたはずのゼファ―の胴体や心の臓を狙ってこなかったのですじゃ!明らかにおかしいですじゃ!悪い奴ではないと思いますじゃ!」と言った。


 そして、持っていたスキットルを床にドン!と置き、少し赤みのかかった顔で俺に伝えてきた。


「私もそう思います!」とズリーが俺に声をかけてきた。「旦那様がゼファ―姐さんを担いでいる時の攻撃は、わざと外しているように見えました!あれは絶対に手加減をした攻撃です!」


 ズリーは俺とゼファーを交互に見つめながら、大きな声で伝えてきた。


「私が負傷している時に、奴の攻撃は単調だったわ。明らかに手を抜いていた。それに、すぐに私の太ももから触手を抜けば、その場で私の脚は無くなっていたと思うわ」とゼファーも付け加えた。


「わるいやつじゃないとおもうんだな。ランドとメリーをきずつけようとしないし」とバリーも、2頭の手綱を操りながら皆なに伝えてきた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 再び、俺は皆の顔を見た。


 皆は真剣な表情で見つめ返してきた。ズリーは何度も頷き、俺の意見を全て受け入れてくれた。その様子は何とも言えず可愛らしかった。まるで小動物のようだ。ただ...背は高いがな。


 よし...分かった。


「よし、決まりだな。奴が望む通り、一度ダンジョンに戻るとしよう...。このまま逃げ切れるとは思えないからな」と皆に伝えた後、バリーに向かって「ダンジョンに戻ってくれ。ゆっくりでいいから...」と伝えた。


「わかったんだな、主様。ランドとメリー!もどるんだな!」とバリーが2頭に指示を出した。


「ブルブルブルゥゥゥ!!」


「ヒィヒヒィィィィン!!」


 ランドとメリーはバリーの指示に従い、ゆっくりと方向を変えて来た道を引き返した。


 その直後、タイタンスクイッドが脳内に、『ケンメイナ ハンダンダ ソシテ ワタシヲ シンヨウシテクレテ カンシャスル』と語りかけてきた。


 先程よりも、少し声のトーンが明るく感じたような気がした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ダンジョンの入り口まで戻ると、『タタカウ フリヲ シテクレ』とタイタンスクイッドが直接脳内に話しかけてきた。


 そしてタイタンスクイッドは、『バシャカラ オリテ コチラニ キテクレナイカ? ランドトメリーガ キズツクカモ シレナイカラ』と、2頭のことまで気遣ってくれた。もう、本気で俺たちを襲うつもりはないようだ。


 そしてタイタンスクイッドは、両側の触手を俺やレバルドに向けてそれなりのスピードで放ってきた。その間に、俺たちの脳内に『ワタシハ マゾクニ カンシ サレテイル ワタシヲ スクッテクレ』と自分の状況を語り始めた」


 なんと、このタイタンスクイッドはマゼールと同じく、古代時代のスクイッド族の戦士だったようだ。


 パラクール星に攻めてきた古代魔族と最後まで戦った戦士だったが、捕まってしまい、身体の中に「従属の魔核」を仕込まれ、古代魔族の道具として使われていたらしい。


 しかし、タイタンスクイッドの心は完全には支配されなかった。誰も殺そうとせず、牢屋で折檻を繰り返し受けていたようだ。


 だが...マゼールたちの命を懸けた儀式により、魔族と一緒に封印され、今回オロイドに連れてこられたらしい。


『ワタシハ モウ タタカイタクナイ ナカマタチノトコロニ イキタイ ダージリンムラ チカクニアルダンジョンニ、「ジュウゾクフウジノツエ」ガ アルヨウダ ソレヲワタシニ ツカッテクレナイカ?』


 つぶらな瞳をパチクリさせながら、俺に頼んできた。なんとなく可哀そうに感じてきた。こいつも被害者だったんだな...。


「ここまで聞いて断り辛い。頼まれてやってもいい...。だが、どうやってダンジョンまで行くんだ?ダージリン村近くのダンジョンまで、お前と一緒に戦うふりをしながら行くのか?ダージリン村まで俺たちを追ってくるのか?」


 ハッキリ言って面倒くさいな。ダージリン村近くのダンジョンまで6日ほどかかるぞ?それまで戦うふりや逃げるふりをしながら、こいつと一緒に行くのか?


 そんな演技力はない思うが、それに休憩もとれないしな...。どうするんだ?


『ソノコトナラ カンガエガアルカラ アンシンシロ。ワタシハ...』と言って、俺たちにタイタンスクイッドが考えたという古代魔族どもに怪しまれないという作戦を話して来た。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 その作戦とは、タイタンスクイッドが瀕死の重傷を負って10階の湖で待機をしている隙に、俺たちが「従属封じの杖」を持ってくることだった。


 タイタンスクイッドは「従属の魔核」を通じて古代魔族に、現在の位置と生命エネルギー、そして声が伝わる仕組みになっている。


『ワタシガ キズツイテ チリョウチュウナラ アヤシマレルコトモ ナイダロウ』と言ってきた。 


 そして...ゆっくりとしている暇はないようだ。早くしなければ、「従属の魔核」の浸食で、どんどん古代魔族の思想に取り込まれてしまう。今でも時々、自我を忘れそうになることがあるらしい。


タイタンスクイッドは、『コダイマゾクタチノヨウニ ジシンノヨクボウヤ ジャシンノタメニ ホコリタカキ ココロヲ ヨゴスコトハ シタクナイ ツヨイセイシンリョク ダケデ ナントカ ジガヲ タモッテイル』と俺たちに伝えてきた。


 すてきやん。


 そしてタイタンスクイッドは『ワタシハ オロイドノヨウニ ミニクク シニタクハナイ! ホコリタカキ センシデ シニタイ!』と、触手をダガーにぶつけながら、俺に言ってきた。


「でも、お前を傷つけたらその隙に逃げてしまうかもしれないぞ?その何とかの杖なるものを探さずに、もっと遠くに逃げるかもしれないんだぞ」と一応聞いてみた。


 無くもないことだからな。


『ワタシニハ ジカンガナイ コノママダト コダイマゾクノ ヘイキトカシタ ワタシガ オマエタチヲ ホンカクテキニ オイツメルダロウ ダカラ ソノマエニ ナントカシテホシイ』と言ってきた。そのつぶらな瞳がキラキラと俺に訴えかけてくる。


 ずるいな。こんなに美しい瞳で訴えられたら、頼まれるしかないだろう...。


「お前の名前は、何だ...?」俺はスクイッドの胴体にダガーを向けようとして、空振りするふりをしながら脳内で問いかけた。


ナド ワスレタ イヤステタ コダイマゾクノ テニオチテカラナ...』と、タイタンスクイッドの声は、どこか寂しげに聞こえた。


「タイタンだ。お前はタイタンだ!どうだ?」


『タイタン...イイカモ シレナイナ ワガナハ タイタントシヨウ デハ ワタシカラ オネガイダ オマエタチヲ オイカケル フリヲシテ イワニツッコム ソノスキニ ワタシニ ソウコウゲキヲ アタエテクレ』


 そう、俺たちの脳内に語りかけてきた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ほ、本当によろしいの?「従属封じの杖」を使うまでもなく、死んじゃうのじゃない?」とゼファーが心配をする。


『ワタシニハ「ジュウゾクノマカク」ガアリ シヌコトハナイ シニソウナホド キズツケラレルト ムジカクデオマエタチニ オソッテシマウ ソノイッポ テマエデ スミヲハク ソコデヤメテクレ』


 なるほどな。そんなに傷つけば10階層の湖で体力が復活するまで休んでいてもおかしくないな。うまくいく保証はないが、とにかくやってみるか...。


「おまえ...いや、タイタン、それでいいのか?相当な痛みも伴うぞ?演技ではなく、本当に痛めつけるんだぞ?」


 ダガー片手に、俺は右の触角を切りつけた。この何十倍の痛みを伴うんだぞ、と力を込めながら...。


 しかし『ワレハ サンザン コダイマゾクタチカラ ゴウモンヲ ウケテキタ!ダガ ココロノ クルシミニクラベタラ ミノクルシミナゾ ナントモナイ!』と、タイタンの全身が白色から赤く色が変わった。


 興奮と決意を感じる。なんとなくだが...。でも、さっきまでの無感情の言動に比べ、今は驚くべきほど豊かに語ってくる。


『コノ サクセン シカナイ タノンダゾ!』と脳内で俺たちに向かって叫んだあと、タイタンは俺たち向かって、ものすごい勢いで突っ込んできた!

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