#2



 目を開けると白い天井。


 まぁ自室の天井も白い壁紙なのだが、違いが分かる程はっきりと真っ白な天井があった。




「知らない天じょ……いや、なんだ夢か」




 護は再び眠りにつくべく目を閉じるが、




「そこは普通最後まで言わない?」




 と、どこか聞き覚えのあるような、苦笑気味の知らない声が聞こえた。




「……うん?」




「おはよう、小森こもり護まもる君?」




 目を開けて声のする方を見てみると、どこか見覚えのある、女性としてはやや小柄な女の子が立っている。




「俺、夢に見るまで女に飢えてたのか? ……うん、飢えてたね、ぼっちだもんね。夢なら仕方ない」




「いやいや、夢なのは否定しないけど、僕は君の夢の中だけの存在じゃないよ? といっても、言葉だけじゃ信じられないよねっ」




 彼女はそう言うとおもむろに手を突き出し、親指と中指でわっかを作る。




「痛くするけど、泣かないでね?」




 にっこり笑い、親指に留められた中指を解き放つ。


 およそデコピンとは思えないような音と共に、頭が割れたかのような痛みが護を襲う。




「むぉああああ!!」




 額を押さえ涙目で呻く護に、笑いながら彼女が話しかける。




「あはは。とりあえず、これで夢ではあるけど夢じゃないってことは分かったかな?」




「う゛ー、夢ではあるけど夢じゃない……? 何? 誘拐?」




「正確には、夢ではあるけど、僕の介入を受けて君の夢じゃなくなった。って所かな」




「君の介入……? 俺の夢じゃない……? つまりどういうことだってばよ」




 痛む額をさすりながら護は問い返す。




「要するに、君の意識は僕の支配下にあるってことさ! 事と次第によっては二度と目覚めないかもねっ」




 ここで彼女はドヤ顔で物騒な事を宣言する。




「……oh」




「まあそれは半分冗談として、」




「えっ、半分でスか」




 残り半分が気になってついツッコむが、




「気にしない! 細かい事を気にしたらハゲるよ!」




 笑顔で無理矢理流される。




「……さて、落ち着いた所で本題に入ろうか」




 痛みも落ち着き、護の混乱が収まってきたのが分かったのか、彼女は真面目な顔になり、話し始めた。




「まずは初めまして。名前は色々呼ばれてるから、とりあえずアマテラス、とでも名乗っておくよ」




「うん? アマテラス……って、神様の名前だっけ。名前聞いた事あるくらいで神話とか細かい話は知らないけど……」




「まぁそうだね、分かり易いでしょ? 今はその認識で問題ないよ」




「え、マジで」




「マジさ!」




「あー、半ば予想してたとは言えマジなのか……」




 伊達にアニメや漫画、ラノベやネトゲを嗜んでいるわけではない護だった。




「あ、そういえば。んと、……神様、の姿に何か見覚えがある気がするんだけど、気のせいかな?」




 名前を呼ぶ事に躊躇し、神様で妥協しつつ一目見た時から気になっていた事を尋ねる。




「ああ、それはね。


 やっぱりこういう状況って混乱するだろうからさ、対象者の好みの異性とか、親しい人物の姿や声に聞こえる方が落ち着くかな? って。


 ちなみに、喋り方なんかも君好みに調整されて聞こえるようになってるはずだよっ。どうだい、嬉しいだろっ?」




 ウインクを飛ばしてくる神様を改めて観察してみる。


 女性としては小柄、護より頭一つ分は背が低いだろうか、髪は綺麗な青で、肩にかかる程度。瞳は翠瞳、というのだろうか? 黄緑色をしている。




(好みの異性って言っても、自慢にならないけど初恋すらまだなんだけど。というか青髪翠瞳で僕っ娘って日本にいるのか……?)




(……むむ。そういえば最近買ったエロゲに出てきて気に入ってたキャラクターが青髪だったけど、もしかしてそれか? よく見ると……というかそのまんまあのキャラクターの衣装だし。にしても、元は二次元だったはずなのに違和感無いな。


 ……しかし、好みの異性で二次元のキャラクターが出てくる俺って……!)




 また少し混乱しつつある頭で密かに落ち込みつつも、ひとまずは色々と信じる事にして話を進めるようアマテラスに促す。




「うん、それでね。


 僕は日本、と君達の呼ぶ地域を管理してるんだけど、具体的には神に対する人の祈り、あるいは大地への、世界への感謝の祈り。


 そういった想いを大地に、世界に還元して活性化させるのが仕事なんだ」




 理解出来るかは横において、ひとまず護は頷きながら話を頭に詰め込む。




「そこで問題があるんだけど、祈りにも害になるものがある。


 神に対する怒り、恨み、憎しみ。あるいは身に掛かる理不尽に、社会に、世界に対するそれ。


 呪いとも呼べるそれが、プラスの想いに影響を与えて、大地に還元出来ない害のあるものに変えてしまう事がある」




 護が話の内容を消化するのを待つためか、話を切り、護を見据える。




「話はなんとなく分かったけど、俺は神を信じてなかったし、世界へ感謝することも無かった。


 てことはマイナス方面って事だけど、そこまで社会や世界を恨んだり憎んだ覚えは無いよ?」




「うん。で、話はここからなんだけど、君は毎日のように何度も死にたい死にたいって思ってるよね?」




「え……と、うん」




 いつも一人の時以外は頭の中で思ってる事を当てられて若干動揺するが、


そういえば相手は神だったか、と納得する。




「基本的に、祈りは強い意志によって想いが作られるから、プラスなら効果的だし、マイナスなら処理するのに手間取る。


 でもそれ以外にも、日々のちょっとした喜びや、悲しみの念も、積み重なれば祈りと同等、あるいはそれ以上の効果を発揮するんだ」




「というと、俺が毎日のようにしていた死にたい攻勢が神様、……アマテラス様に迷惑をかけてると?」




「まあその通りでもあるんだけどね。


 マイナスの処理を担当してる職員。職神がこないだとうとうブチキレちゃってね。『毎日毎日鬱陶しいわボケナスウゥゥゥゥ!!』ってさ。


 あ、別に君一人の念だけってわけじゃないし、他にもちゃんと担当はいるんだよ? ……全員もれなくブチキレちゃっただけで」




「そ、それは大変ご迷惑をおかけしまして申し訳なく……」




 神界? の職場事情を案じつつも冷や汗をかきながら詫びる。




「あはは。うん、それでね、マイナス処理担当の職員の一人が、


『そんなにこの世界が嫌いなら他の世界にでも行けばいい!』


 なんて叫んだんだけど、また別のマイナス処理担当の職員が提案したの。


 ある世界を管理する神様が遊び好きで、その世界が君の世界のRPG? みたいな世界になるよう弄りまくっちゃったらしくて、そこでなら君達も楽しめるかもしれないし、あるいは望み通り道半ばで死ねるんじゃないかって。


 それはありかも! って事で問い合わせたら、向こうの神様もイレギュラーを入れた方がより楽しめるんじゃないか。って乗り気みたいでね」




 どちらかというと死んでほしいって思いが強いのではないか、と思うが、仮にもオタク寄りの趣味を持つ護はRPG? の様な世界に心を惹かれ、心なしか早くなる鼓動の高鳴りを感じていた。






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