144話 譲渡

 僕の名前は奏多かなた浩一郎こういちろうと言います。高校一年生でもう少しで二年生になりますが、顔が童顔で背も小さいので中学生と間違われることも多々あります。そんな僕には加地 涼子さんという三年生の年上の彼女が居て、今日はその彼女から日曜日に喫茶店Maryという場所に呼び出されました。普通三年の先輩から呼び出しなんて怖いイメージかもしれませんが、相手が彼女なので何も問題はありません。むしろワクワクします。


”カンカラカーン”


 店のドアベルを鳴らしながら店に入る僕。すると奥のテーブル席で「おーい」と言いながら手招きする涼子さん。今日はチェックの柄の青いワンピースを着ているので、とても可愛く見えます。僕が向かいの席に座ると、急に顔を赤くしてモジモジし始める涼子先輩。実はその理由に大体見当はついていますが、それを言わないのが男というものでは無いでしょうか?


「あのよ、そのよ……」


 なかなか言葉に出せないでいる先輩ですが、急かしたりせず待つのが良いと思います。こうやってモジモジする先輩を見るのも眼福ですしね。


「ご注文の方はお決まりでしょうか?」


 スッと注文を聞きに来た女のウエイターさん。何処かで見たことがあるような気がしますが、モジャモジャの髪を見てもそれが誰だかは分かりません。


「僕はブラックコーヒーのホットで、涼子さんは何にします?」


「わ、私はジンジャエールで」


「かしこまりました……そういえばブラックコーヒーには甘いチョコレートが合いますよね」


 ウエイターさんがそう言ってきたので、僕はここぞとばかりにそれに乗っかりました。


「そうですね、甘いチョコレートはこの店にありますか?」


「あぁ、残念ながら無いんですよ。申し訳ありません」


 ちょっとオーバー気味の店員さんに僕は吹き出しそうになりますが、あとはこの最高のパスに涼子さんがシュートを決めるのを待つばかりです。


「チョ、チョコレートならここにあるぜ‼」


 可愛らしいラッピングされた袋を取り出す涼子さん。はい、よく出来ました。

 

「開けて良いですか?」


「お、おう、開けてみやがれ」


 袋を開けるとその中に更に小さな透明の小袋が入っていて、それを外に出すと中に丸っこいトリュフチョコが五個入っていました。


「わぁ、凄いですねこれ♪涼子さんが作ったんですか♪」


「そ、そうだよ、ありがたく食え、ハッピーバレンタインだ馬鹿野郎」


 ぷいっとそっぽを向く涼子さんですが、その顔はとっても嬉しそうです。


「それではすぐにコーヒーをお持ちしますね、ごゆっくり」


 ウエイターさんは鼻歌交じりに帰って行き、別の女の店員さんと小さくハイタッチしているの見るに、どうやら涼子先輩の協力者であることは間違いない様です。涼子さんを手伝ってくれてありがとうございました。

 チョコは口の中で溶けてすぐに無くなりましたが、甘い余韻がいつまでも残る大変美味しいチョコレートでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る