145話 支援

 佐藤です。バレンタインデーという僕に全く関係の無いイベントが終わった次の日のこと。僕がいつも通る歩道橋を歩いていた時のことです。歩道橋の丁度真ん中辺りで手すりに手を掛けているオサゲ髪の少女が居ました。近所の中学の制服を着ているので中学生でしょうが、その浮かない表情に僕は既視感を覚えました。

 案の定、手すりの上に登ろうとしていたので、僕は慌てて少女に声を掛けます。


「君、危ないよ‼」


 僕がそう声を掛けると少女はハッとした顔になってこちらを見て、とりあえず足を下におろしたので一安心です。


「じゃ……邪魔しないでもらえますか?私死にたいんです」


 まるで昔の自分を見てるみたいで胸が痛みます。死んでこの世から消えてなくなりたい、そう思っていた自分の気持ちが蘇ってきました。しかし僕は黒野さんの荒療治で救われ、そうして今まで生きてきました。だから目の前の少女を放っておけません。


「どうして死にたいの?」


 自殺理由を話すというのは嫌なものですが、理由を分からないままでは何も話しようがありません。


「……私、クラスメートから無視されるんです。先生の授業を妨害する子が居て、それを注意したらウザいって思われたらしくて、それからクラスメートから無視される様になってしまって……もう私耐えられないんです。どうして間違ったことをしたわけじゃないのに、こんな想いしないといけないんでしょう?」


 僕は普通にいじめられていたけど、この子は無視をされ続けていたんだ。想像してみると無視されるのも相当応えるなぁと、目の前の少女が可哀想で仕方なくなりました。


「君は悪く無いよ、周りの奴らが全部悪い。でも死ぬのは……自分で命を絶つのは駄目だよ」


「どうしてですか?」


 彼女が僕を見る目には少し怒気を感じます。取り繕った綺麗ごとを言えばすぐに反論してやろう、そういう気持ちが伝わってきます。

 自殺がダメな理由、その理由に明確な答えを僕は持っているわけではありません。ただ僕は自分が死んだら起こる最大の悲劇を知っているだけです。


「君が死んだら周りの君を想ってくれている人が悲しむんだ……ずーっとずーっと悲しむんだ。君が二度と戻って来ないことが悲しくて悲しくて仕方が無くなるんだ。だから死んだらダメなんだ」


 僕の言っていることが自殺をやめる理由になるかは分からない。最適解かも分からない。でもこれが僕の精一杯です。黒野さんなら「勝手にしろ」とまた言うのかもしれませんが、僕はそんな過激なことは言う度胸もありません。


「……お父さんとお母さん、悲しみますよね」


 少女の目に涙が溜っています。きっとお父さんとお母さんが大好きなんだろうなぁとひしひしと伝わります。

 そうして少女はヘナヘナと力なくその場に座り込み、嗚咽を吐きながら泣き始めました。僕はその背中を擦ってあげましたが、結局のところ僕にはこの程度のことしか出来ないのかもしれません。

 僕が自殺を止めたのだから、僕にも責任が付いて回ると思います。だから責任もって少女を支える決意をしました、


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ブラックコーヒー相談 タヌキング @kibamusi

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