第9話 教室と性欲




更に奈流芳一以は炎命炉刃金を振るうと共に、空を斬った空間に手を添える。


直後。

奈流芳一以の肉体は物理法則を無視。

空間を斬った方角に向けて体が動き出す。

壁に向かって衝突すると同時、壁を破壊して隣の教室に移る。


肉体は炉心躰火によって耐久性も強化されている。

故に、肉体には甚大な損傷に至る事は無い。

地面を転がりながら、奈流芳一以は相手の能力を分析する。


「(大きい物体を小さくして、小さい物体を大きくする事も出来る…)」


大を小に、小を大に。

体積の長さと太さを自在に操る事が出来る能力。

それこそが、先程の祅霊の能力であり、数値とは、体積の長さと太さの数値の事を指していた。

分析し、成程、中々厄介な能力であると奈流芳一以は思う。

だが、祅霊の行動から察するに、接触する事で能力が発生する。

だとすれば、相手に接近しなければ良い。


「(だけど、その程度の能力なら、まだこっちも…ッ?!)」


奈流芳一以が先程破壊した壁から、祅霊の顔が伺える。

すると、祅霊は何かを取り出して教室の中へと投げ込んだ。

それは投擲用の道具では無いと、奈流芳一以は即座に察した。

何を投げ込んだか、よく観察する。


「(なんだ、投擲、飛距離が俺に向けられてない、爆発物、こんな学校で調達したのか?と、言うか、あれは)」


見覚えのある形状をしている。

赤色に、黒の取っ手が付いた、金属製の…。


「(消火器?!膨張してる、いや、大きくなって…ッ)」


祅霊の能力によって消火器が巨大化していく。

教室の三分の一程に大きくなったかと思えば、即座、破裂した。

すると、消火器の中に入っている薬品、消火剤が部屋の中を一瞬にして包み込んだ。


「(煙が前を遮った、目が何も見えないッ)」


有毒性の成分は入っては居ないが、それでも目や口に入る事を恐れ、服の袖で顔を隠す奈流芳一以。

周囲が見えなくなった事で、奈流芳一以は祅霊の動きが分からなくなる。


「斬神・襲玄ッ」


大量の炎を消費し、斬神・襲玄を呼び出した。

炎命炉刃金の刀身にて待機していた襲玄が炎と共に出現すると、奈流芳一以は襲玄に命令を行う。


「窓を割れッ」


その言葉と共に、襲玄は片手に持つ大きな太刀を振るい、教室の窓を割った。

刀を振った際の圧によって、空間に満ちた消火剤も共に教室の外へと出て行く。

周辺が薄くなり、視界が良く見える様になった奈流芳一以。


「(煙を晴らす為に窓を割り、見通しを良くする、だが、相手の行動が読めないのが気持ち悪いッ)」


狡猾な祅霊。

学塾から生まれたと言う事は、それなりに知能があると言うのかと思った。

見晴らしが良くなると、奈流芳一以は、近くに居る筈の祅霊が居ない事に気が付く。


「ッ何処に消えた…逃げた…?」


教室へと入って来たのでは、それとも、煙幕は逃げる為に使ったもの、なのか。


「な、ワケ無いッ」


いや祅霊は貪欲だ。例え斬人であろうとも人間、喰らい犯し殺す価値はある。

何よりも、強力な能力を持っている以上、このまま逃げるなどと言う真似はしないだろう。

人間を蹴落とし、侮辱し、屈辱を与える人類の天敵、狡猾な遣り方をするのが得意。

ならば、奈流芳一以は、戦闘の経験を元に、祅霊の動きを予測する。

同時、炎命炉刃金を後ろに向けて振るう。


「(背後からの攻撃、姿を消したワケじゃない)」


背後を見ると、自販機で購入出来る缶入り飲料水程に小さくなっていた祅霊の姿が認識出来た。


「(数値を弄って体積の大小を自在に出来る…つまりは自分の肉体も可能ってワケだもんな…ッ)」


自らの肉体を小さくした事で、一時的に奈流芳一以から姿を消した。

そして、背後から奇襲を仕掛け殺そうとしたのだろう。

それにいち早く気が付いた奈流芳一以は、炎命炉刃金に宿る襲玄に炎を授け、刀身に力を宿す。


「(このまま斬り殺す)『辰風たちかぜ』ッ」


祅霊は、小さいままだった。

だが、その小さいままで腕を上げる。

すると、部分的にではあるが、祅霊の腕が奈流芳一以を軽く超える程に巨大になった。


「(腕が巨大化した、このまま殴り殺すつもりかッ!)」


奈流芳一以は炎命炉刃金を振り下ろすが。

ただ、腕を巨大化させるだけで、奈流芳一以の攻撃よりも早く掌が彼の体を包み込み、握り潰そうとした。


「斬神」


しかし…。

その声が響くと共に。

祅霊の掌が奈流芳一以の体を掴み損ねた。

相手に先手を取られたものの、奈流芳一以の攻撃は続く。

刀を振り切り、祅霊に向けて重圧の斬撃を叩き込む。

教室を破壊し、祅霊が壁に叩き付けられる。

その壁を破壊して、更に教室を経由していき…最終的に、学舎を突き抜ける奈流芳一以の斬撃。

祅霊はその一撃で体が半壊し、動けなくなった。

奈流芳一以は、刀を振り上げた状態で、後ろから聞こえて来る声に耳を澄ます。


「『縮閃しゅくせん』」


それは、宝蔵院珠瑜の声だった。

背後を振り向いた奈流芳一以。


「(攻撃が逸れた…いや、違う、斬神、と言う事は)」


先程、攻撃が逸れたのではなく。

宝蔵院珠瑜の斬神による能力によって、空間が歪んでいた。

奈流芳一以は、重苦しい息を吐くと共に、相棒に向けて感謝の言葉を口にする。


「…悪い、助かった、珠瑜」


奈流芳一以は祅霊の討伐を完了した末に、そう言った。




奈流芳一以は宝蔵院珠瑜の様子がおかしい事に気がついた。

宝蔵院珠瑜の元へと駆け寄る奈流芳一以。


「…大丈夫か、珠瑜」


宝蔵院珠瑜は胸を抑え、宝蔵院珠瑜は悶えて苦しんでいる。


「はぁ…はーッ」


宝蔵院珠瑜の顔は発情していて顔が赤かった。

薬を服用していない、と言う可能性が奈流芳一以の脳裏に過る。


「薬飲んだのか?…おい、珠瑜っ!?」


宝蔵院珠瑜の反応に対して、奈流芳一以は心配していた。

奈流芳一以の鬼気迫る表情は人に寄っては優しい人間として映るだろう。

だが、今の宝蔵院珠瑜にとっては奈流芳一以の表情は煩わしいものでしかなかった。


「どうせ、火汲みの巫女を抱いたんでしょ?」


宝蔵院珠瑜は顔を真っ赤にしながら奈流芳一以に向かって大きく叫んだ。

奈流芳一以は宝蔵院珠瑜の心配をしていた。

だが、宝蔵院珠瑜が自己主張を再生体が欲情している今この状況では意味を成さない。

宝蔵院珠瑜の体は段々と熱くなってくる。

それに応じて自分の心の内に渦巻いている感情も次第に大きくなっていた。

自分以外の人間と寝ていたという事実が許せない。

誰よりも奈流芳一以の事を思っているのに、その願いは一方通行。

それがより一層宝蔵院珠瑜の思いを過激にしてしまった。

宝蔵院珠瑜の頭の中はその事でいっぱいだった。


「え、いや、そうだけど、今此処でそれを言うのか?!」

「今言わないと、ボクが壊れそうなんだよッ」


宝蔵院珠瑜は自らの肉体に蝕んでいる毒素を嫌気が指す程に理解している。

だからこそ、毒素によるも理解し尽くしていた。

どうやら宝蔵院珠瑜は自分の体が欲情すると心に決めていた思いも自然と口に出来る体質になっていたらしい。

だから奈流芳一以に自分の胸の内を晒すためにわざと薬を飲まなかった。

宝蔵院珠瑜は制服のボタンを外していく。


「ボク以外の女を抱きやがって…ボクが一体、どんな思いをしてるのか知ってるのか!?、何も知らない癖に、他の女とヤりやがって、妬けて死にそうだッ」


窮屈なサラシも宝蔵院珠瑜は解いていき、豊満な胸を露出してみせた。

奈流芳一以は宝蔵院珠瑜から離れようとする、彼は、宝蔵院珠瑜は、薬を飲まなかった事による暴走状態に陥ってると確信した。


「だから、薬を飲んだとか飲まなかったとか関係ないっ」


一旦宝蔵院珠瑜から離れる事にした。

だけど宝蔵院珠瑜が胸ぐらを掴む力は強かった。


「ボクが、今、此処で、あの女と同じように…お前を抱いてやる」


そのまま奈流芳一以を引っ張ると体を回転させる。

奈流芳一以は背負い投げされてしまった。


床に強く叩きつけられる奈流芳一以呼吸が出来なくなる。


「ぐおッが、はッ」


「はぁ…はっ…許さない、からな、ボクを、蔑ろにしやがって…ッ」


宝蔵院珠瑜は奈流芳一以の上に馬乗りした。


「ほら、これで、もう動けないだろ、キミの目には、ボクしか映らないだろっ!」


苦しんでいる奈流芳一以に向けて顔面を掴むとそのまま自らの胸を押し当てる。

宝蔵院珠瑜の改造された肉体は天然物と変わらない柔らかさだった。


「何をされた、あんな女よりも、ボクの方が大きいんだぞ!」


これ程までに暴走している以上は、奈流芳一以は宝蔵院珠瑜は止まらないと思った。


「ま、待て、学舎だぞ、ヤるとしても、此処以外でやろう」


だからせめて。

神聖な学び舎以外で行う事を提案する。

それは宝蔵院珠瑜の誇りを守る為でもある。

いくら結界によって人が入ってこないとは言え多少の不利益は実在する。


「(行為が終わった後、ニオイは残ってる筈だ、現場修理の人間が来たら、ニオイで一発で分かっちまう!!)」


奈流芳一以は教室場所で宝蔵院珠瑜との行為に及ぼうと考えていた。だけど奈流芳一以の提案もむなしく。

宝蔵院珠瑜はもはや我慢の限界だった。


「そんな提案、呑むと思うなよ…ボクが此処で、この教室で喘いで果ててやる、キミは、この教室で、ボクと一緒に果てるんだよ、じゃないと許さない、絶対に、だッ」


胸元で抱きしめていた奈流芳一以を口元へ近づけて舌先を絡ませるようにキスを行う。

宝蔵院珠瑜の大好物であるチョコレートを舐めるかのように奈流芳一以の口内を舐め回した。


「ふーッ…ふーッ」


宝蔵院珠瑜の視界は渦巻くようにグルグルしていた。

奈流芳一以は宝蔵院珠瑜の良心と理性に一縷の望みをかけながら懇願する。


「く、クソ、少し冷静になれ、…凄い力だッ!」


しかし、いや、最早、言葉では宝蔵院珠瑜の動きは止まらない。

唾液がだらだら、垂れて来る。

彼女の興奮は留まる事を知らず、彼の臭いで更に興奮したいのに、体に染み着いた火汲みの巫女の臭いが邪魔をして興奮しきれなかった。


「我慢なんて、してやるもんか…キミは、ボクのものだッ…ッ」


勝利宣言のように宝蔵院珠瑜は口元大きく歪ませて、笑顔を浮かべながら奈流芳一以に襲いかかった。

唇で、首筋に痕を付ける様に咬みだす。

身体の動きは、最早子供を作る段階にまで上がっていた。


「ぐ、わあぁああああッ」


奈流芳一以は情けない悲鳴を口から漏らしながら、宝蔵院珠瑜の行動に対して拒む事すら出来ずに、抱かれるのだった。

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