第17話 学園生活の始まり
『アルフライム王立魔術学園』の大講堂――そこで、入学式は行われる。
多くの貴族が通うことで有名な学園であった。魔術学園と言っても、必ず全員が魔術師を目指すわけではない。
だが、『魔術』と名の付く以上は、彼女達はこれから魔術を中心に学んでいくことになる。――そんな場所に、アーシェの姿はあった。
「あれがフレアード家の……」
「噂は本当なのだろうか?」
「ヴェイン殿は来られていないようだが……」
保護者席でひそひそと話を続ける大人達の中に、私はいた。
本来であれば、ここにアーシェの父であるヴェインが参加するはずだったのだが……彼の姿はここにはない。
フレアード家に関わりがあって参加しているのは、私くらいのものだろう。
アーシェはというと、ムッとした表情のまま、学園長の話を聞いている。……愛想を振る、という考えは彼女にはやはりないようだ。
それはそれで、アーシェらしいと言えばアーシェらしい、と思わず苦笑いをしてしまう。
周囲の生徒達の様子を見ると、アーシェと少し距離を取っているのが分かる。
きっと、親に何か言われているのだろう。これは私も、初めから危惧していたことだ。
――アーシェが学園に入って、友達を作ることは簡単ではないのかもしれない。
それこそ、アーシェに乗り気があればまた別なのだが、少なくともアーシェには全くその気がないのだから。
この件に関しては、私からも直接できることは少ない。
アーシェが友達を作ろうと思えるように、私から説得するくらいだろうか。
入学式は滞りなく終わり、アーシェはクラスの方へと移動していく。
今日から、彼女の学園生活がスタートするのだ。
私はというと、一人で学園内を見学していた。
「……警備については、しっかりと魔術が使われているようですね。さすが、貴族も多く通う学園というところでしょうか」
これなら一安心――となるわけでは当然ない。
護衛である学園の警備で事足りるのであれば、わざわざ護衛である私がここまで来る必要などないのだから。
アーシェのクラスは校舎の三階にある。その三階の高さと同じくらい高さの大木が、近くに並んでいる。
枝には、鳥を象った私の式神がいる。
そのほかに、廊下やクラスの天井に張り付くようにして、いくつかアーシェの周辺を見張るための式神を仕掛けておいた。
何かあれば、すぐに私の式神が反応するだろう。
だから安心というわけではないが、他にも式神を仕掛けて置ける場所を探して、配置しておくつもりだ。
アーシェが授業で使う場所に配置できれば、一先ずは問題ないだろう。
学園側も、私がアーシェの護衛であるということは把握しているはずだ。
ある程度、学園内での自由な行動は許される。
これは私に限ったことではなく、学園に通う貴族――特に、アーシェクラスの大貴族には、付き人の名目で護衛がいる。
実際、入学式の場にも、数名の手練れが混じっていることは、私も気付いていた。
「――おや、こんなところであなたをお会いするとは」
そう、声を掛けてきたのは、入学式に参加していた一人。
「クルスさんですか、お久しぶりですね」
「いやぁ、本当に奇遇ですねぇ」
執事服に身を包み、優しげな笑みを浮かべた男――クルス・ケイレンス。私と同じ、魔術師エージェントの一人であった。
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