第27話 どんな王様?
俺が目を開ければ映るのは天幕だった。
「っイヤな夢だ」
眠りから覚めた俺は、吹き出す汗をタオルでぬぐい去る。
黒王都虐殺の夢、アウラとの離別、ジジイとの邂逅。
特にジジイのお陰で、呼吸と型の使い方を知ることができた。
まあ、俺が振るう剣の型を見るだけ見て、口を出すだけで剣一つ振りはしなかったが。
それでも、口だけだろうと指導は確かであり、基本の先にある応用の型に自力で辿り着けた。
気づけばついた筋肉により身長は伸び、今では天以外の型を使いこなすまでに至っている。
何しろ天とは一つ。
天の型は師範から正当後継者のみ伝えられる型。
修行の影響で髪の毛が、黒から灰色味の強い白になったが、ハゲるよりマシだとしよう。
「悪い、耀夏」
何度謝罪を口にしたか。
行方不明者の婚約者を見つけ出さず、ただ復讐と奪還のために動いている。
顔は――浮かぶ。
浮かぶが、耀夏とアウラが瓜二つであるため、浮かぶ顔が一体、どちらなのか、ここ最近分からなくなってきた。
だとしても目的は、何一つ見失っていないとして今日に至る。
「森の中の割には蒸し暑くないんだよな、ここら辺は」
今、俺ムサシはドウツカ大森海に足を踏み入れている。
開闢者としての依頼、道中の護衛と遺跡調査のためだ。
「もう朝か」
すぐ枕元では、丸まったポボゥが鼻提灯を出して惰眠を貪っている。
起こす理由もないため放置。
腰元に二つの武具を下げた俺は、テントの外に出る。
ドスドニドのランボウは身を丸くして眠っているも、護衛の騎士たちは既に起き、野営地内を忙しく動き回っていた。
「あら、おはよう、ムサシ」
ひときわ大きなテントから依頼主であるカエルラ・ルキフゲが現れた。
屋敷で着ていたドレスではなく、動きやすい衣服、言うならば探検家が着る長袖長裾の服だ。
まあ魔物や原生生物が跋扈する森の中で、ヒラヒラのドレスを着る輩はいないか。
「今日から内部を探索するけど、よく眠れたかしら?」
「ああ、ばっちりとな」
「そう、ならまずは朝食ね」
「ぽぼぼ!」
食事の話となるなり、いつの間にか起きたポボゥが、俺の右肩で嬉しそうに鳴く。
うるせえから真横で鳴くなと、再三注意してんだが、鳥だけに聞きやしねえ。
これから調査する遺跡は、生い茂る樹木の中にある。
まあ、どの遺跡もドウツカ大森海にあるのだから、当たり前の共通である。
ただ今回調査する遺跡は、今までにない成果が期待できることから誰もが熱意を持って挑んでいた。
「しっかし、これはね」
食後のミーティングが行われている天幕内にて、机の上に広げられた遺跡の内部構造に、俺は感嘆を改めて漏らす。
現時点であるが、可能な限りマッピングが行われている。
目を見張るべきは、その外形である。
遠見の天紋により、地中に埋まる遺跡の形が逆さピラミッドであることが発見された。
後は件の扉前まである通路や部屋については、人の手で入念に調査が行われる。
「現時点で各部屋や通路に罠や隠し部屋などはなし。最奥まで直線で竜気機関車一〇両編成分の深さはあると見て良いな」
大抵、この手の遺跡にはトラップや隠し部屋が通例だが、ないのは、本当にないのか、それとも件の扉奥より今まではなかったから、次もないと油断を誘う餌なのか、こればかりは直に踏み込まねば分からない。
「なにがあるか不明瞭だけど、油断ってあなたに言うだけ無駄ね」
「油断と慢心は致死を招く」
異世界だからといって好都合なコンテニューなどない。
死ねば終わり、殺されれば終わりなのだ。
もちろん保険は用意しておくにこしたことはない。
「ぽぉぼぼ?」
その保険に顔を向ければ、どこで穫ってきたのやら、火で炙った小動物をモゴモゴと食べている。
俺の分まで、たらふく朝飯を食べたというのに、こいつは……。
ともあれ、食った分以上の仕事はしっかりしてもらう。
狭い遺跡内に持ち込めて、誰よりも危機感知能力に長けた生物は、罠や不測の事態に対して最大の保険となる。
そこ、カナリヤ代わりとか言わない。
「後はカメラね。依頼内容は扉奥内部の撮影だけど、万が一危機を感じたらカメラを捨ててでも帰還するように」
「へ~普通は、死んででもカメラを持ち帰れって言うかと思ったが?」
「カメラはまた作ればいいわ。生きて帰れば次の探索に繋げられる。死んだらおしまいよ」
子供とは思えない大人の発言は、当主としての重さか、それとも依頼主としての矜持かは、はてさて。どっちでもいいか。
「時に切り捨ての決断をするのが王だとしても、常に犠牲を容認するのは王ではないわ。ただの暴君。民あっての国よ」
どっかのクソジジイに聞かせてやりたい言葉だよ、まったく。
「んじゃ個人的に聞くが、お前さんはどんな王様になりたいんだ?」
「一つしかないわ」
カエルラは臆することなく堂々と言ってのけた。
「誰もが幸せでいる世界を作る王よ」
現実は理想によって舗装される。
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