第7話 視線の先に

 ツーツーツー。

「おいおいマジかよあの女……」

 好みのタイプと思って優しくしたのにとんだイカれ女だった。

 それとも、マジで美紀が真由香をそそのかしたのか。

 二年前の夏は三股か四股をかけていた頃。うっかり真面目で愛情が重いタイプの美紀と付き合ってしまった。別れを切り出したら逆上された。

 頭をガシガシとかく。

 バッグを探ると確かにお札とお守りがなかった。

 雨が車の屋根を叩く。


 美紀が死んだ頃は変なことが続いていた。いつも妙な視線を感じた。夕立の日は頭が痛んだ。5kg痩せた。やつれて眠れなくなって、ツテでお札をもらいにいった。家にもお守りはたくさんある。それでやっと平穏な生活を送れるようになった。

 でも、今はない。

 

 もうくるぶしまで水が来た。

「嘘だろ」


 とにかく車を出よう。

 こういうときは車のトラブルサービスとかあるだろ。いや浸水してるから110番か119番の方がいいのか。

 ケータイをかけようとするが真っ暗な画面のまま電源が入らない。

「くそっ、なんなんだよ」

 ダッシュボードを叩く。

 車内の匂いが強くなってきた。

 生臭い。

 気持ち悪い。

 水はあっという間に膝まで来ている。

 手が滑ってケータイが水没した。


 窓を叩き壊す覚悟を決めて窓を見た。


 そこに、いた。

 立っていた。

 

「びぇっ!!?」

 変な悲鳴が出た。

 はずみで動いた手が、水面に当たる。


 ばしゃ。



 ばしゃばしゃ。

 ぐえっ。

 ちゃぱちゃぱ。

 くるしい。たすけて。

 ぱちゃ。

 みき、おれがわるかっ






 ちゃぽん。

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