第2話 side:遥②

 桜ちゃんは私の2個下。ロングの髪に大きな目の大人しい子。声が涼やかで、これまたアイドルのように可愛い。


 その桜ちゃんと英人、昔から兄妹仲がいいなと思ってたけど、今では月一回のペースで「妹を呼んでくれ」と言う。

 いくら仲がよくても、それってどうなんだろ。 

普通、大学進学すればさすがに疎遠になるよね?

 

 「シスコン」という単語が頭に浮かぶのに、そう時間はかからなかった。


 そして、何も起こらないまま1年が過ぎようとしている。疑問は確信に変わり、当初の期待はずれからの落胆は大きく、私の英人に対する想いはだんだんとしぼみ、今ではドキドキする相手というよりチームメイトのようだ。おかげさまで家事の分担は上手くいってるけど心の中はちょっと……いや、かなり複雑。


 英人はイケメンで告られることも多いのに彼女は未だにいない。「お前との生活が楽しくてさ」なんて言うけど、本当のところはシスコンだからでしょ、と頭の中で返している。

 友達からも「ねーホントは付き合ってるんでしょ?」なんて聞かれる始末。

 あーあ。


 こんなはずじゃなかったのにと思いつつ、メッセージを打ち込む。


『ごめんね桜ちゃん、近いうちにまた顔出してくれないかな、英人が寂しがってて…』


 ラインを送ると、すぐさま着信があった。英人にも聞こえるようスピーカーにする。

はるかさん、あの、私次の土曜日のお昼からなら空いてるんですけど、2人ともいますかね?」


 相変わらず声が可愛いなぁ、と思いながら「いるよ、よろしくね」と相づちを打つ。話しながらも罪悪感が胸をかすめる。



 あー、申し訳ないな。桜ちゃんだって春から受験生だし、忙しいのに。こんなシスコンのせいでうちに来るなんて……。

 せめて来る時はめいっぱい優しくしてあげようっと。


 英人はさっきまでの表情はどこへやら、床に転がったまま頬杖ついてニコニコしてる。そのまま写真集の1ページにでもなりそうな笑顔。だけど原因がわかってるだけに私の胸の中は複雑だった。一瞥いちべつして私は自室に戻った。



 後で飲み物を取りにキッチンに戻ると、冷蔵庫に貼ってるカレンダーが目に入った。ご丁寧に花丸とハートと「桜!」と書いてあった。周りを黄色でキラキラを描いて囲っている。


 ほんとに、なんなんだコイツ。

 私の期待を返してもらいたいなぁ。


 私は深い深いため息をついた。

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