異世界で超絶可憐な王女の特別教育係にされて鼻血が止まりません

@suekoneko

第一章 中二、異世界で恋に落ちる

第1話 中二、初出勤する①

 扉が開かれる。

 堅苦しい感じの揃いの服を着たおばちゃん三人――おっと――女官三人が並び立っていた。三人とも口が「へ」の字にひきむすばれている。真ん中の女官は狐みたいな目をしていて、何事も見逃しませんよ、容赦しませんよ、って感じ。

 うわぁ……。


 僕はうつむきかげんになってしまった。王宮の秘書室長だというジャジャビットからは、「背筋をしゃんと伸ばして、まっすぐ前を向いていろ」と言い聞かされていたのだけど……。

 

「姫のご用意はよろしいですかな?」

 僕の背後に立つジャジャビットが、えらく気取った声で言った――女官たちに気づかれないように僕の尻を強くつねりながら。

 慌てて、僕は顔を上げた。くっそぉ!


「お仕度はできています。ですが……こちらが先日おっしゃっていらしたご教育係の方なのですか?」

 筆頭格らしい狐目の女官が眉根を寄せると、左右の二人の眉も動いた。


「さよう。学寮から派遣されたトーマです」

「トーマ殿、ですか……。この土地のお生まれではない、ということは確かに伺っておりましたけれど――」

 女官三人の顔にはありありと途惑いの色が見える。こんな若造が現われるとは予想していなかったにちがいない。


 若造っていうより、小僧っ子。

 てゆーか、中学二年生。二学期の途中だった。早生まれだから、まだ十四歳にもなっていない。

 笑うなら、どうぞ。笑ってください。僕は泣きたいけど。

 まだ十三歳十一か月の僕に、務まるわけがない。他国に嫁ぐ王女の教育係なんて。


「式部官殿。このトーマは幼く見えますが、王女と同い年。十八なのです」

 え? こんな見え透いた嘘、通るのか? 僕は幼く見えすぎなんだってば。中二男子の平均より小柄で、近所に住む小学六年のサッカー少年のほうが、よほど大人びているのに。僕は複雑な気持ちでいっぱいになった。


 望月冬馬。原産国日本。区立中学に通っていたのに、今は、奇妙な世界の(たぶん、異世界ってやつの……)某学寮に所属する学生トーマ。どうして、こうなった?


「十八とても此度こたびのお役目には若輩に過ぎる、と危ぶまれるかもしれませぬな。しかし、ご心配されますな。ホサイン博士の学寮でみっちり仕込まれております。無論、成績は学寮のトップでしてな。博士は、ゆくゆくは後継に、とお考えのようで」


 ホサイン博士の名前や後継といった単語が出た途端、おばちゃんたち、じゃなかった、女官たちの表情がやわらいだ。あ~、嘘八百の最初の一歩を踏み出しつつある僕。


「まあ、まあ! 学寮のトップ!」

「博士のご後継!」

「当然のことですわね。エリカ姫の重要なご教育係を担うわけですから」


 エリカ姫。

 十八歳。

 僕より年上。

 無理、無理!

 ぜ~ったい僕には無理ですから! 赤っ恥かくだけですから! 特別教育係だなんて……。




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挿画です

https://kakuyomu.jp/users/suekoneko/news/16817330668867525143

https://kakuyomu.jp/users/suekoneko/news/16817330668867640292

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