第2話 給食食べてたら振られた話

第1話から3か月ほど経ったある日、僕は休み時間に校庭でドッジボールをしていた。


僕はなぜか失恋エピソードにまつわる記憶力が著しく高く、あの日のことはよく覚えている。


広い校庭の校舎側。

校舎から見ると右側のコートに僕は立っていた。

すると、突如として僕のおなか回りに腕が回された。

振り返ると、そこには同じクラスの女の子がいた。

そう、彼女はドッジボールの試合中だというのに、僕に背後から抱き着いてきたのだ!


自分でこの文章を書いていて分かるのだが、なかなかに迷状況である。

そして彼女は抱き着くにとどまらず、俺の耳に口を寄せてこうささやいた。


「好きだよ」


俺はかすかに赤面しつつも、誠意をもってこう答えた。


「好きでいていいよ」

と。

今思い返せば、甘酸っぱいも、塩辛いも通り越して、ただの恥ずかしいやりとりなのだが、私の記憶に強く刻まれている。


それから1年がたち、僕たちは4年生になる。

3年生から4年生に上がるときは、クラス替えがなく、今年も同じクラスであることに喜びを覚えていた。

そのうえ、席替え後に隣の席になってしまったのだ。

当時の僕は「これは運命だ!」なんてことを思った。


しかし、事件はその後1か月ほどで起こる。


ある晴れた暖かい日、僕たちはいつものように給食を食べていた。

だが、彼女の様子が何やら変だ。いつもは持ち前の明るい笑顔で、僕だけでなく周りをも笑顔にしてしまうのに、今日はなんだか表情が暗い。

どうしたのだろう、と思っていると、彼女がおもむろに口を開き、こう言い放った。


「好きな人変わっちゃった」


俺は頭が真っ白になり、右手に持っていた箸を机上に落とし、牛乳パックを持つ左手に少しだけ力が入るのを感じた。


そして、背中に冷たいものが走り、僕の周りの空気が一瞬冷えたのを感じた。

その日は柔らかな日差しもあって、暖かったはずなのに。


彼女の背後から見えた校庭の景色と、空の色が今でも僕の脳裏に焼き付いている。


焼印やきいんほどこしたかのように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る