第3話 恋に落ちた姫

 姫様は暇を見つけては彼のいる場所に行きたがった。訓練場、厩舎、交代で見張りにつく、東の丘の砦。


 夏のある日、彼を追いかけて見失い、街中の路地で悪漢に絡まれたことがあった。姫様をかばい、大声を上げると騎士たちが集まってきた。

 あっという間に悪漢は蹴散らされた。


「大丈夫ですか」

 おびえて腰を抜かした姫に、手を伸ばしたのが彼だった。「はい」と姫様は手を預ける。彼以外見えていない、乙女の表情だった。



 姫様が父王にねだって、彼を護衛に任命するのにそう時間はかからなかった。



「アンドリュー、こっちへ」

「お待ちください、姫様」 


 秋の庭園、木の葉舞う中を姫様は駆け出し、彼が追いかける。

 平和な光景、お伽話とぎばなしの中にいるような現実感のなさ。見守る私の目は冷めきっていた。


 どれだけ姫様が恋焦がれようと、彼はその想いに応えられない。城の中は縁故ある者の結びつきが強く、後ろ盾がないものは弱い。莫大な財産も身分もない彼と、どうこうなろうなんて無理なのだ。

 それなりの教育を受けているのに、思いが至らない姫様に苛立いらだっていた。


 そして冬、王が亡くなった。

 流行病はやりやまいが原因だった。

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