第2話 告白

「先生、好きです!

 付き合ってください!」


 目の前の少年――千早薫ちはやかおる君は一気に言った。


 長めの前髪、眼鏡、猫背で地味な男子。

 ありったけの勇気をふりしぼって告白したんだろう。返事を待つ目が潤んでいる。


 またかぁ。

 私は溜息をつく。


 男子高校の先生になって、この手の告白には慣れっこだ。対応はいつも同じ。


「ごめんなさい千早君。

 私、君のことは生徒としてしか見れない」

「じゃ、じゃあ卒業したら……」


 千早君はすがるような目でこっちを見ている。

 下手なことを言うと希望を持ってしまうかもしれない。

 ので、切り札を出す。


「私、彼氏いるの。来年結婚すると思う」

「えっ……」

 

 驚いたものの、

「……もしその人と別れたら」

 千早君はめげなかった。


「それはないかな」

 まっすぐな想いを受けとめきれず、私は視線をそらす。


「千早君、勘違いしてるのよ」

「勘違い?」

「世の中に出れば、魅力的な若い女の子はたくさんいるんだから」

「そんな、一時の気の迷いじゃないです!

 先生は僕にいつも親切で、可愛くて、笑顔が素敵で……こんな気持ちはじめてなんです!


 僕、がんばって先生にふさわしい人になりますから……だから……」


 確かに私は千早君に丁寧に指導してきた。でも、それは彼が職員室に来て熱心に質問してきたからだ。

 打てば響くように成績も上がってきて、教師としてやりがいを感じさせてもらった。


 だけど、それとこれとは別だ。


「褒めてくれて嬉しいけど、本当にごめんね。

 私は誰にでも優しく指導するし、笑顔も振りまくよ。

 だって仕事だもの」

「仕事……」

 今度こそ、千早君はショックを受けていた。


「今日のことは忘れて。またいつでも質問しに来てね」

「あ……」


 なおも何か言おうとする彼を残し、私はその場を去った。

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