第14話 「あ、お味噌汁…………」
「こちら側は、銀さん達が移住してくることの許可を無事に取る事が出来ました。あと、食べ物も沢山持ってきたので、食べられるものを選んでいただければかと思います」
「さすがに仕事が早すぎないか?」
優輝は、森から出て行ってから二時間弱で戻ってきた。
手には、大きな鞄。
中には、沢山の容器が入っている。
ついでというように、銀と話していたことまで実現しようと許可まで取ってきたため、銀は顔を引きつらせた。
今は銀籠も起きており、優輝を出迎えるように見つめる。
だが、彼は何故優輝が来たのか、何の話をしているのかよく分かっておらず、銀に説明を求めるように視線を向けた。
「なんの、こほっ、話なのだ、父上」
「これには深い事情があったのじゃが、今は考えなくても良い。それより、現在進行形で床に広げられている様々な容器について聞きたいぞ、優輝」
銀が言うように、優輝は出来る限り銀籠から距離を取り、床に蓋付き容器を並べていた。
「風邪に効きそうで喉に優しい、体が温まるスープを持ってきました。保温カップに入れている為、まだ温かいはずです」
「だから、あんなに慌てていたのか…………」
小屋のドアをぶち破るように入ってきた優輝の姿を思い出し、銀はため息。
銀籠は、保温カップに興味津々で、じぃっと見ていた。
並べられたカップは五個、どれも触れてみるとほんのり温かい。
「あ、銀さん。カップにスープの名前を書いているので、選んでいただいてもよろしいでしょうか。俺はここから動きませんので」
優輝が今いるのは、銀から一番離れられている出入口付近。
隙間風が体を冷やすため、黒いコートやマフラーはつけたままだった。
「ふむ、チキンスープに卵スープ。にんにくは……わしが苦手じゃなぁ……。あとは大根に味噌汁か。本当に沢山あるなぁ」
「大きな鍋で水を沸騰させ、一気に作りました。もっと選択肢を増やしたかったのですが、これ以上は食料の無駄だと姉さんに怒られ、断念してきたのです」
「う、うむ。確かにこれは、今の我では食べきれる自信が…………」
銀籠も呆れながら、床に置かれているカップを見る。
全て食べようとしている銀籠の言葉に、優輝は慌てて止めた。
「い、いや、待って。お腹壊すから一つだけ選んで」
「し、しかし…………」
「選択肢を増やしたかっただけだから、無理しないで」
優輝の言葉にむむむっ……と、銀籠は悩みつつ一つのカップを取り、蓋を開けた。
偶然手に取ったのは、大根おろしスープ。
まだ温かいため、湯気が立ち上り銀籠を温める。
「大根のおろし汁には消炎作用があるみたいだよ。鼻づまりや頭痛、発熱にも効果あり。あと、大根には沢山の消化酵素が含まれているから、胃腸の働きを助けてくれるんだって」
「よく調べておるなぁ」
「自転車で帰っている時に調べました。あとは、姉ちゃんやじじぃにも手伝って頂いたんですよ」
ここまで熱心に看病する人などいるのだろうか。
銀は口元を引き攣らせ、銀籠は今頭が働いていないため、普通に感心していた。
「す、すごいなぁ」
「当たり前です。だって、銀籠さんには早く元気になってほしいですから。銀籠さん、人が作った物なんて嫌かもしれないけど、本当に何も盛ってないから安心して食べて。疑うならどんな方法を使ってもいいよ、毒見でもなんでも」
銀籠は優輝の言葉に何も返さず、手に持っている大根おろしスープを見下ろした。
「…………銀籠、心配しなくても大丈夫じゃぞ。どれも美味しそうじゃ」
銀はチキンスープを手に取り、蓋を開ける。
優輝が銀にスプーンを渡すと、銀籠より先にチキンスープを口に運んだ。
熱すぎず、飲みやすい温度になっており、「美味いぞ」と優輝に感想を伝えた。
「それなら良かったです」
「本当に美味い、ありがとうぞ」
「いえ、銀籠さんの為ですので」
「…………わしは?」
「…………まぁ、はい」
銀への言葉は冷たく、肩を落として項垂れてしまった。
二人の会話を見て、銀籠は迷いながらも手に持っているスープを見て、おずおずと喉に流し込む。
「っ! 美味しい…………」
「そ、それなら良かった」
目を輝かせ、思わずと言ったように感想を零すと、優輝も安堵の息。
銀が「わしと同じ感想なのに…………」と落ち込んでいることなど、二人の視界には入っていない。
銀籠はスープをゆっくり飲み、銀もチキンスープを飲みほした。
他のスープも銀籠は飲もうとしたが、優輝がそれを阻止。
無理しないでと、カップを回収してしまった。
「あ、お味噌汁…………」
「どうぞ!!!!!」
悲しげに呟いた銀籠に、優輝は瞬時に一度回収したカップを差し出す。
飲みたかった味噌汁が戻ってきて、銀籠は嬉しそうに目を細めた。
そのまま、優輝の手から銀籠はカップを受け取った。
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