第10話「我にとっての肉は手に入ります」

「ふあぁぁぁああ」


「最近眠そうだね、大丈夫?」


 学生服を身に纏い、神楽と優輝は通学路を歩いていた。


 優輝は眠たそうに欠伸を零し、涙を拭いている。

 隣を歩く神楽は眠たそうにしている優輝を見て、首を傾げながらスマホ片手に問いかけた。


「大丈夫だよ。最近、人狼について調べているの。それで、寝る時間が遅いだけ」


「え、マジ? 人狼って事は、銀さんについて調べているって事?」


 予想していなかった優輝からの返答に、思わず神楽は手からスマホを落としそうになる。

 慌てて掴み直し、再度彼を見た。


「そう。人狼について少しでも知る事が出来れば、銀籠さんを喜ばせる事が出来るかもしれない。だから、調べているんだよ」


「へ、へぇ……。何か、いい情報は手に入れた?」


「いや、特に。人に化ける事が出来るとか、人を騙すとか、そんな事ばかりだよ。本当に銀籠さん達って人狼なのかな。人を騙したりなんてしないと思うんだけど」


 調べた内容と銀達を照らし合わせるが、一致しているところがない。

 神楽は首を傾げている優輝に、ボソッと言葉をなげかけた。


「騙す前に、人に近付く事すら出来ないもんね、銀籠さん」


「今、銀籠さんを馬鹿にした? いくら姉さんでもそれは許さないよ?」


「えっ、ちょっ! ご、ごめんごめんごめん!! お願いだから怒らないで! あんたが怒ったら誰も止められないんだからさ!!」


 ひぃぃぃいいいと、神楽は一人走り出し学校へと向かった。


 残された優輝は「まったく」と鼻を鳴らし、ポケットに手を入れてゆっくりと歩みを再開する。


 今の季節は秋。肌寒くなり、もう上着が必要だなぁと思いながら青空を見上げ歩く。


 どうすれば今より距離を縮める事が出来るのか、何を話せば心を許してくれるのか。


 そればかり考えていると、すぐ学校にたどり着く。

 優輝の友達が挨拶し、いつもの学校生活が始まった。


 ※


 森の中では、銀籠が食料を捕まえにボーラと呼ばれる武器を手に森の中を歩いていた。


 ボーラとは、複数のロープの先端に球状の重りを取り付けた武器。

 今までは動物を見つけると、ボーラを投げ捕まえ、食材をゲットしていた。


 銀籠は最初、上手く扱うことが出来ず、捕まえる事が出来ていなかった。

 だが、今では百発百中。鳥などと言った難しい動物も難なく捕まえられるようになっていた。


 不安も何も無いはずの銀籠だが、何故か今、纏っている空気は重く暗い。

 隣を歩いている銀もそれに気づき、気にしていた。


「はぁ…………」


「元気がないな、銀籠よ。体調が悪いのか?」


「いや、そうではない」


「なら、優輝か?」


「…………はぁ」


「わかりやすいのぉ」


 狼姿で隣を歩く銀が、銀籠の反応を見てケラケラ笑う。


 秋が近づいて来ており、風は冷たい。

 銀籠は羽織を掴み、体を縮こませる。

 手は冷たくなっており、白い息を吹きかけ温めた。


「寒くなってきたな。銀籠、狼の姿にならんくて良いのか? 毛皮はあったかいぞぉ〜」


「それだと狩りをすることができないぞ、父上。今日はお肉が食べたいと言っていたではないか」


「じゃが、寒いのじゃろう? 風邪を引いてはいかん」


「大丈夫、このくらいで風邪を引く程、我はやわではない。それより、早く捕まえよう。それで火も起こし、体を温めるぞ」


 顔をきょろきょろとさ迷わせ、獲物を探す。

 銀も同じく獲物を探していた。


「――――――――っ!」


「どうしたの、父上。獲物いた?」


「…………いや、何でもないぞ。それより、寒くなってきたからか、動物達をすぐに見つける事が出来んなぁ」


 一瞬、銀がなにかの気配を察知し、体を固まらせた。


 銀籠が問いかけるが、何も言わず誤魔化そうとのそのそ歩き、獲物を探し始めてしまった。


「父上、何か隠していないか?」


「何を隠しているんだ?」


「いや、それを我が聞いているのだが…………」


「む? 隠し事なんて……。銀籠が外に出ている間に木のみを盗み食いしたことくらいしか――――あ」


「えっ」


 口が滑り、銀は顔を銀籠から逸らす。

 だらだらと汗を流し、「さーて、獲物獲物」と歩き出した。


「……そんなんで誤魔化せるわけないでしょう父上!!!! いくつ食べたのだぁぁぁああ!!!」


「す、すまん!!!!!」


 銀籠は銀を追いかけ問い詰めようとしたが、銀は狼の姿であっちこっち駆けまわる。

 瞬発力が高いため捕まえることが出来ない。


 なんとか諦めず追いかけ続けたが、最初に体力をなくしたのは、怒っていた銀籠だった。


「ふっふっふ、わしに勝とうなど数十年早い」


「現実的な数字を言うのはどうかと思うぞ父上!!」


 ────このくそ父上が……。


 ケラケラと笑う銀を睨む、銀籠。

 頭にきた銀籠は、手に持っているボーラを強く握り、構え始めた。


「え、ぎ、銀籠? それは、獲物を捕まえる時に使う物だろう?」


「そうだな、父上。今の我にとっての獲物を捕まえるための武器だ。今使う他に使う時はない」


「いや、ある、あるぞ? わしを捕まえたところで、食料は手に入らぬぞ?」


「いえ、我にとっての肉は手に入ります」


「あっ…………」


 銀籠が突如敬語で返答をしたことにより、銀はこの世の終わりを察した。


 今の銀籠の表情と雰囲気は、今は亡き妻と似ている。

 一度怒らせては手に負えない。


「では、そこにお座りください、父上?」


「…………わ、わるかった!!!! もうしないから許してくれ!!!」

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