人間にトラウマを植え付けられた半妖が陰陽師に恋をする
桜桃
プロローグ
第1話 「ごめんなさい、ごめんなさい」
青空が広がり、太陽光が降り注ぐ森の中。
風が自然の音を奏で、鳥が歌うように鳴き声を響き渡らせる。
緑に囲まれている道では、一匹の狼が銀色の毛並みをそよがせ歩いていた。
隣には、ウルフカットされた銀色の髪を揺らし、黒色の着物を身に纏っている一人の男性が歩いている。
肩には、白い生地に金色の竜が施されておる羽織がかけられていた。
「父上、体の方は特に問題はないか?」
「心配無用じゃ、
「自己肯定感が高いのはいいことだが、さすがに今のはイラっと来たぞ」
狼と会話をしている青年、銀籠は深いため息を吐きながら地面を踏み歩く。
手には、籠いっぱいの木の実や米が抱えられていた。
「昔、銀籠はワシに何度も投げ飛ばされたり、木刀でコテンパンにされておったからのぉ。イラっときても不思議ではないなぁ~」
「今の言葉で、さらに怒りメーターが上がった。今なら父上を簡単に投げることができそうだ」
「ほぅ? それなら、受けて立とうぞ」
言いながら狼は駆け出し、銀籠の前に立つ。
ニヤッと笑ったかと思うと、周りに突如白い霧が現れ、狼を包み込み姿を消す。
数秒待っていると霧は晴れ、銀籠によく似た男性が現れた。
違うところをあげると、銀色の髪は腰まで長く、目元は赤い。
銀色主体の着物に、銀籠と同じ羽織を肩にかけていた。
口元には薄く笑みを浮かべ、挑発するような瞳を銀籠に向ける。
狼の正体は人狼、名を銀。
あやかしの中ではトップの実力を持っており、百鬼夜行を作り夜闇を駆け回っていたと噂が立てられていた。
人間の姿に変化した実の父親、銀を目の前に、銀籠は眉を顰め息を吐く。
二人が見つめ合っていると、先に限界が来たのは、意外にも挑発していた銀の方だった。
プラプルと体が震えたかと思うと……。
「――――――うっ」
「無理するでない、父上。昔の後遺症が残っているのだから」
その場に蹲ってしまった銀に近づきしゃがむ。
顔色を確認し、狼の姿に戻るように促した。
素直に狼の姿に戻った銀は、自分の情けなさに落ち込んでしまった。
銀籠は慰めの言葉を投げかけ、再度歩きだす。
「無理するからだぞ、父上。後遺症だけでなく、父上はもう年なのだからガタが来ても仕方がない」
「年齢のことは言うでないわ!!」
銀の返答にケラケラ笑っていると、体に突き刺さるような視線を感じ銀籠は動きを止める。
銀も同じく視線に気づき、赤い瞳を周りへと向け始めた。
「…………何者かがこの森に侵入したらしいな」
「みたい、だな」
銀が周りを見回し警戒。
銀籠も、顔を青ざめさせ自身の体を擦りつつも、視線の正体を探していた。
周りを警戒している二人を、草の影から覗き見る一つの影。
猟銃を構え、銀を狙う。
――――――パンッ
発砲音が鳴り響いた瞬間、銀は瞬時に放たれた弾を横に跳び回避。
咄嗟に撃たれた方向を見ると、猟銃を構えた青年を確認できた。
目を開き、猟銃を構えた状態で固まっている。
侵入者を見つけた銀は、地面を強く蹴り駆け出す。
青年は気を取り直し、猟銃を構えもう一度発砲。だが、簡単に避けられる。
目の前まで銀を近づかせてしまい、悲鳴を上げ逃げ出そうとするが、絶対に逃がさないというように覆い被さった。
視界が一瞬暗くなったかと思うと、背年は地面に背中から転ばされる。
背中の痛みに顔を歪めつつ起き上がると、銀が自身の猟銃を咥え見下ろしていた。
武器を失い、恐怖と困惑などで頭を覆い尽くされた青年は、恥など全て捨て、逃げ出した。
銀は追いかけることはせず、猟銃を咥えながら青年が完全にいなくなるのを待つ。
辺りが静寂に包まれると、銀は安堵するように体に入っていた力を抜き、銀籠へと向き直す。
「っ、銀籠!!」
銀籠が地面に座り込み、自身の体を抱え震えている。
猟銃をその場に落とし、銀は震えている銀籠へと駆け寄った。
「大丈夫だ、人間はもう遠くへと行ったぞ」
安心させるように言うが、銀籠の震えは止まらず自身の体を摩り続ける。
声をかけるだけでは、今の銀籠を落ち着かせることはできない。
銀は顔を俯かせている銀籠の頬をなめてあげた。
すると、やっと正気に戻った銀籠は真っ青の顔を上げ、銀を見る。
「…………っ!! 父上!! 怪我はないか!? 苦しいところや痛いところなどはないか!?」
銀の姿を確認すると、過剰なまでに銀籠は銀を心配し始める。
乱れている銀籠に大丈夫という意味も込め、小さく頷いた。
落ち着きを取り戻し始めた銀籠は、本当に怪我をしていないか確認すると、狼姿の銀に抱き着き、何度も何度も震える声で謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「大丈夫じゃ、銀籠」
銀籠が落ち着くまで、銀は何度も「大丈夫」と伝え続けた。
銀籠は、人を見ただけで体が震え、動けなくなる、人間恐怖症。
過去、人によって悲しい別れを味わい、人によって強い恐怖と怒りを知った銀籠は、人と関わるとろくなことにならない。
そう考えるようになり、人を見るだけで過去の記憶が頭に蘇り、拒絶反応を起こしてしまう。
今はもう、銀だけが自分の味方で、絶対に離れていかないし、自分を一人はしないと考えている。
銀はそれを理解しているため、日々少しでも共に過ごせるようにしていた。
だが、自分もいつ、何があるかわからない。
”もしも”の時、銀籠が取り乱さず、後追いしないように。何か手を打たなければということも同時に考えていた。
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