ファーストキスは魔剣とともに。
「お前、ここから出たくないのか?俺と一緒に異世界で無双しようぜ!」
「はぁ?何言ってんの?バカなの?あたし、主として認めた人以外には絶対従わないんだからね!それに、無双って何よ?」
つい「はじめて」という言葉に妙な想像をしてしまい、やばい空気を感じる俺。
「無双ってのはさ、例えば魔剣の力で世界を支配したりとか、そんな感じだと思うんだけど……」
「ふーん、そうなんだ。魔剣で世界を支配するって、意外といいかもしれないわね。気に入ったわ!」
台座に刺さっていた魔剣が突然人の姿になり、そして俺の唇を奪った。急展開すぎて、ドキドキが止まらない。心臓が爆発しそうだ――ファーストキスが、魔剣によって奪われてしまった。
―契約完了です。魔剣クラリエは、マスターのものとなりました。ところで、マスター、ファーストキスの味は青春時代の酸っぱいレモンの味でしたか?
「いや、俺が想像してた味とは全然違ったけどな……」
―マスターのような人には、この胸のトキメキや青春の甘酸っぱさは分からないでしょうね。
「コールさんは機械だろ?ドキドキとか感じないだろうし、いい加減ぶっ壊すぞ?」
―『コールさん』なんて名前で呼んでくれたのは、マスターが初めてです。私の初めてを奪われました……。
「もう、コールでいいかな?正直疲れてきたよ……」
―ありがとうございます、マスター。これからも末永くよろしくお願いします。
「もうツッコまないからな……」
―。
「ねえ、誰と話してるの?」
クラリエが少し寂しげに、そして怒り気味に問いかけてくる。
「ああ、ごめん、コールさんっていうシステムと話してたんだけど……分からないよな?」
「それって、女?」
クラリエの声が少しずつ鋭くなっていくのを感じる。
「ふんっ!!」
「ぐっはぁ……!」
クラリエの右ストレートが、俺の腹に見事にヒットする。なんて強烈なパンチだ……。
この調子なら誰も襲ってこないかも、なんて思ったけど、さすがに言葉には出さなかった。二度目を喰らったら、本当に死ぬかもしれない。
「魔剣は主のもの、主は魔剣のものよ」
彼女の右拳から微かに煙のようなものが見えるが、気のせいだろうか?
「なにそれ……?俺のものは俺のもの、お前のものも俺のもの、みたいな?」
まだ腹に強烈な痛みが残っている。どんだけパンチ力ヤバいんだよ……。
「魔剣、大事にしてよね。一応あたし、女の子なんだから」
クラリエはそっぽを向きながら、頬をほんのり赤く染めている。不覚にも、可愛いと思ってしまった。
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