Confidentiality〜探偵ダレン・オスカーの憂鬱な事件簿〜

藤原 清蓮

プロローグ

魔法使いか、探偵か


 銃声音が響き渡る中、男は少女を片腕に抱え路地裏を走っていた。目の前を走る少年に大声で叫び指示を出す。


「エリック! こっちは気にせず、全速力で走れ!!」

「はい!!」


 返事と同時に、少年の走る速度が上がる。運動神経が良いのだろう、瞬く間に距離が開く。

 男は少年を隠すように真後ろを取って走り、一度振り向き、銃を撃つ。

 その弾は、男の狙い通りの場所を撃ち抜いていき、これまで一発も外していない。


 抱えられている少女は、その美技に人知れず瞳を輝かせる。

 大人の前では話さない様にに言われていた約束も忘れ、少女は思わず声を掛ける。


「おじさん、魔法使いなの?」


 銃声が響く中、不釣り合いな可愛らしい声に、可愛いらしい質問。

 男は普段、出した事もない声を上げる。


「はぁ!? 何言ってんだ!?」

「だから、おじさんは魔法使いなの?」


 再び問いかけられ、男は走りつつも一瞬、少女に視線を向ける。

 金色と緑色が入り混じった不思議な色の瞳が、キラキラと輝きながら男を見つめている。その隙をつかれたか、男の頬を弾が掠めた。

 男は舌打ちをし、直ぐに視線を敵に向け、銃を撃つ。そして……。


「僕は……。魔法使いじゃなく、探偵だ。それより何より、僕は……」


 銃声が二発連続して響くと、男が初めて立ち止まった。

 追って来る者は、もう居ない。


 少し先の通りには、男が三人。地面に横たわり呻き声を上げている。


(おじさん、あの悪い人達のこと、殺してないんだ……)


「僕は、おじさんじゃ、ない!! ! だっ!!」


 少女は頭上から降り注いだ男の叫びに、驚きながら見上げた。

 

 男は、少女の目にも「美しい」と分かる見目だが、今は酷く顔を歪ませている。


 美しい人は、怒っても美しいのだな。


 と、まもなく十歳になる少女は、目の前の美しくも怒る人物をみて、初めてそう思った瞬間であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る