オバタリアンの古代エジプト考察記

みかみ

第1話 古代エジプト人=禿頭(つるつる)説

結論から言うと、古代エジプト人=禿頭 という式は必ずしも成り立ちません。髪のあるひともちゃんといました。


では何故こんなタイトルを第一話に持ってきたか。その理由をお話します。

参考文献は、分中に○)という表記にして、最下にまとめてあります。



【古代エジプト人がみんな禿頭だったと誤解されやすかろう理由】

映画に出て来る古代エジプト人って、かなりの確率で禿頭スキンヘッドじゃないですか? だから、古代エジプト人て、みーんな頭剃ってるもんだと思ってる方って多いんじゃないかな、と考えたんです。

『ハムナ○トラ』のイム○テプも、『エク○○ス』のラ○セスも、止まったハエが滑り落ちそうなくらい見事にツルッツルでした。神殿やお墓に見られるレリーフでも、髪の無い人が沢山描かれています。それ以外は、大抵カツラを被ってるから地毛の有無なんて正直、ぱっと見ただけじゃ分かんない。

むしろ『へー、古代エジプト人て、みんなツルッパゲにして、そのかわりカツラかぶってたんだね!』って考えてしまうんじゃないでしょうか。

古代エジプトにハマるまで、私はそう思ってました。


いや、いいんですよ、禿頭でもね。スキンヘッドはカッコイイし。太陽神ラーの恵み(=太陽光)を頭皮全体で受け止めるなんて、THE太陽信仰! って感じで素敵じゃありませんか。めっちゃ暑そうだけどね。

個人的にはほんのちょびっと残す丸刈りが好みなんですが(バズカットというやつ?)――まあ、私の好みなんてどうでもよろしい。


でも、実際は違うんだよ。スキンヘッドばかりじゃないんだよ。という事を、ここでお話しさせて下さい。

と、こんな感じで偉そうには書いてますが、ぜーんぶ文献から拾って来ただけですので。所詮はエジプト好きのオバハンが、本やらネットやら論文やら見ながらツラツラ書いてるだけだと思って読んで頂けたら幸いです。


【古代エジプト人の自毛事情】

さて。それじゃあ、古代エジプト人(特に男性)がみんな禿頭だったか? というと、そんなこたぁ、あるわけがないんです。


文献1) によると、男性は髪を短く切ってなでつけ、耳を出す髪型をしていたそうです。女性も、中王国時代(BC2686~BC2185)の石像にカツラから自毛がはみ出ている様子が見られる石像があります(ネフェルト座像 カイロ・エジプト博物館蔵)。もちろん、キレイに剃り上げている人もいたでしょうけれど。


禿頭率が高かったのは、神官くらい。それでも、みんながみんな禿頭だったわけではなく、髭のある神官もいれば、巻き毛(髪の束を頭の先から巻いて横に流す)にできるくらい長い髪を持った神官もいたそうです1)。


神官のヘアスタイルについては、書くと長くなりそうなので、これ以上は次に回して、一般的な毛髪事情に戻ります。


実際は、自毛を伸ばしている人もちゃんといました。

薄毛に悩む人もいて、育毛剤なんかも古代エジプトにはあったくらい。艶やかで豊かな自毛は、アピールポイントでもあったそうです。

踊り子なんかは自前の髪をお下げに結って、先に飾りをつけたりして華やかに演出していました。

それから、かの有名なラムセス二世オジマンディアスのミイラにも毛髪はちゃんと残されていました。ラムセス二世は赤毛でした。黒ちがいます。

王妃のミイラにも、ふさふさふわふわの美しいロングヘアをされた方がいらっしゃいます。


じゃあ、どうして映画の古代エジプト人にはつるっつる頭が採用されているのか。それはおそらく、古代エジプトに存在した、非情に切実な事情が関係しているからだと思われます。


それは、しらみ

くっついたら頭がかゆくなる、あの虱なんです。


【古代エジプトの虱問題】

虱の卵は実際、多くのミイラの毛髪から採取されたようです。テーベで踊り子をしていた人物のミイラからも、虱が発見されたとか。

虱の中にはチフスの原因となる病原体の媒介となるものもありました1)。


古代エジプトには、お風呂はあったものの、それは王族にしか許されない超を越える贅沢品でした。

庶民はおけを置いて、その上で腕やら足やらに順番に水差しで水をかけて体を洗っていたそうです1)。――めんどっっくさ!


貴族なんかになると、シャワーもあったそうですよ。でもそれは、籠やふるいなんかに召使が水を通してご主人さまにぶっかける、という超絶マンパワーに頼った人使いの荒い洗体方法でした1)。私が召使いならブチ切れて、『頭から水かぶりたかったら、いっそナイル川に飛びこんだらどないでっか!』なんてご主人様に暴言を吐いてしまいそうです。


こんな感じで、古代エジプトでは一定の衛生レベルを保つのが難しかったんですね。

髪の毛を剃るのは、虱の予防と、また拾ってしまった虱をカツラに移さないためでもあったわけです2)。


【結論】

これは多分ですが、髪を長くできるのは、一つのステイタスでもあったんじゃないでしょうか。

Gay Robinsさん2)も、位の高い男性は、不精髭を生やす事もあった。ということを論文に書かれています。

ある程度の清潔を確保できる生活水準の人々が、髪やひげをのばし、アレンジを楽しんでいたのかもしれません。

とはいっても、農夫や召使いなど非富裕層が全員が全員、つるっつるにしていたわけではないのは、壁画や彫刻を見ていても分ります。つるっつるもいたけれど、ショートカットの人から、セミロング1)(p268の挿絵。耳が出ている)と思える人さえいます。

また、カツラやエクステは植物繊維製のものもあったそうですが、多くは人毛で作られていた1) といいます。ということはやっぱり、髪の長い人もいた、という事です。

どこかの文献で、新王国時代以降はロングヘアも出てきたという一文を読んだ気がするのですが……残念ながら見つけられなかったので、今回はここまで。


オマケとして、当時の育毛剤のレシピを記しておきます1)。

効果のほどは分りません。お試しになる時は自己責任でお願い致します。


1.雌の猟犬の足

2・ナツメヤシの種

3・ロバの蹄

1~3を鍋の油の中で煮立て、たっぷり塗る。


ライオンの脂肪も効果あり。ただし高級品。


次回は、神官のヘアスタイルについて書きたいと思います。またしても、つるつるネタです。今度は全身。


【参考文献】

1)図説 古代エジプト生活誌 上 

 著:エヴジェン・ストロウハル

 訳:内田杉彦

 原書房


2) Hair and the Construction of Identity in Acient Egypt,c.1480-1350B.c.

  GAY ROBINS


3)古代エジプトを知る辞典

 著:吉村作治

 東京堂出版

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