航海者

茅野あした

第1話

 さん、にぃ、いち! の合図で私は目を醒ましました。

 炎の翼がめらめら燃えて私を打ち上げ、私はあっというまに崩壊しました。身軽になった私は、ぐんぐんスピードを増して飛んでいきました。はばたきは無音でした。

 私は、翼のはえた墓標。つまるところ天使でした!

 にぃさんを天国へつれていくために、私は飛んでいくのです。

 プラネット・ナインの影を目の端にとらえて、にぃさんを追っていきました。どこまでも、どこまでも!

 やがて太陽系を脱して、オールトの雲さえ飛び越えて、私は、私は自由なひとりぽっちでした!

 次はどこを目指そう。目指す場所なんてありません! なんてったって、宇宙の果てには決してたどりつけないのですから! 光を以ってしても!

 やがて天の川銀河すら飛び出て、織姫と彦星が溺れているのを横目に、マゼランと敬礼を交わしました。親子のマゼランを見ていたら孤独な自分が恥ずかしくなって、はやくにぃさんに逢いたいと想ったけれど、あれ? 私は今どこにいるんだっけ?

 早く、速く往かなくちゃ、にぃさん! にぃさんが死んでしまう2025に至るまえに!

 とおぅくに光の禍が、まちがえた、渦がみえました。きょだいな目のように光はこちらを見すえていました。にぃさんを知りませんか? 私のにぃさんです! 私はほんとうはにぃさんの墓標にならなくちゃならないんだけど、せっかく翼を手に入れたことだし、もっとうんと、とおぅくまで往ってみようとおもうんです! とおぅくに往くまえに、にぃさんが逝くまえに、あいさつだけしておこうとおもって。死に水も取らせてもらえないなんてかわいそうでしょう? だから、私のにぃさんを教えてください! にぃさんの名前を! ぴかぴかの円盤を乗せた吟遊詩人の名前を!

 きょだいな目は、ゆっくりとまたたいて、腕をのばしました。それから、あくびもひとっつ!

 私はアンドロメダにさよならをいって、旅をつづけます、目的地のないさすらいの旅を!

 どこまで飛んでも、にぃさんには出逢えませんでした。にぃさんはどこまで往ったんでしょう。もうずっと先に逝ってしまったのかな。

 ねぇラニアケア! 彼女は私のだいじなともだちです。それでもやっぱり私はひとりぽっちです、ラニアケアとは喋れないし手もつなげない!

 ずいぶんととおぅくまで来たような気がしますが、宇宙の果ては見る間に遠ざかっていって、今はもう見えません。

 ラジウムの悲鳴が聞こえますが、さいわい墓標は持っていました。にぃさんのための墓標を! あともぅすこし、死んでしまうまで逝こうとおもいます。

 それに私は、なんといっても止まりかたを知りませんでした!

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航海者 茅野あした @tomorrowchino

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