TheWorldHackers

@TKDev

1st_code begin

時間は夜23時を回ろうかという時間、僕は家までの帰路についていた。

僕は草間時人、今年大学を卒業し今の会社で働くようになったばかりの新社会人だ。

働きだしてまだ数か月だが、すでに辞めたいレベルには不満がある。

今日もとんでもない量の資料作りを命じられ残業をしていたらこの時間というわけだ。

幸い家と会社の距離は徒歩で済む距離で大変助かる。

僕は両耳に付けたイヤホンに耳を傾ける。毎日通勤時にこうやって最新の情報を仕入れている。

ーーー今日正午ごろ〇銀行の△支店に強盗が入りました。犯人は店内に火を放ち、一時は外からも炎柱が見える程でした。この事件で店内にいた職員と利用客あわせて4人が煙を吸うなどして病院に搬送されましたが、一人の死亡が確認されました。犯人は逃走しており足取りは未だつかめておりませんーーー

最近似たような事件がおおいな、しかも今回のは結構近いぞ。

怖いなと思っていたら手に何か触れた気がした。

空を見上げると先ほどまでは月も出ていたのだが今は雲に隠されたのか見えない。

風も冷たくなってきており小雨がパラついている。

やばいな急ぐか。

僕は小走りに切り替え少し進むといつもは迂回する公園の前まで来た。

月の出てない公園の中は想像より薄暗く少し不安を覚えたが濡れることを思えばと公園の中を突っ切ることとした。

公園の中央は等間隔に街灯がある遊歩道になっていて思いのほか通りやすく感じる。

いつもの通勤コースにするのもいいななんて思いながら走っていると公園の中央くらいに来た時だ。

少しずつ雨が強くなっているのを感じながら走っていると炭のような臭いを感じいったん止まりあたりを見渡した。

火の手は見当たらない。

が、よくみると街路樹とその周りの芝生が黒く焦げていた。

なんだ火事か?まぁ火はひとまず消えているしいいか。

そう思ってまた走り出そうとしたとき街路樹の脇に違和感を感じた。

何か黒い虚無が浮いているように見えるソレは僅かに発光してた。

なんだこれ?小さなブラックホール??

初めて見るソレを僕は気が付いたら右手を伸ばし掴んでいた。

掴んだ瞬間雨が止んだように感じた。

何かを握った感覚はない。

手を開いてみるとやはりそこには何もなかった。

少しの間不思議に感じていたが身体に当たる雨に現実に引き戻された僕はまた走り出し帰宅した。


翌朝

出社には少し早い時間に目覚めた僕は昨日の黒い物体が気になり少し早めに出て昨日の場所を見てみることにした。

公園についた僕は公園の中央あたりを目指し歩く。

おそらくこの辺だっただろうか記憶の辺りに近づくと黒く焼け焦げた街路樹がみえた。

僕はそれに近づき辺りを見回してみる。

しかし昨日見た黒い物体は見当たらなかった。

昨日のは何だったんだろう?などと考えていたらそれが目の前に浮かんでいた。

その見た目は四角い箱のような形をしており上部には赤色灯のようなものがついていた。正面の真ん中には目玉のようなレンズらしきものがこちらを向いている。そして羽もないのに空中に浮いていた。

ドローンなのか?

ドローンは僕をじろじろ見ると上部の赤色灯を激しく転倒させ正面のレンズが強く光ったと思うと光線を放ってきた。

僕は思わず眼を瞑り両手を強く握りしめた。

……

しばらくして眼を微かに開くと、ドローンと放たれたであろう光線は空中でピタッと静止しているように見えた。

僕は物陰に隠れようと恐る恐る移動し始めた。

それと同時に強く握られていた手の力もゆるむ。

すると静止していた光線は先ほどまで僕のいた場所を貫き、ちょうど黒く焦げた街路樹に突き刺さると街路樹は光を放って消え去った。

驚愕の顔を浮かべているとドローンのレンズは僕をとらえ二発目を放ってきた。

やばい!死ぬ!僕は再び眼を瞑り両手を握りしめる。

……

しかししばらくして眼を開くとドローンと光線はまた静止していた。

もしかして両手を握っていると動けないのか?

僕は両手を強く握ったまま素早く近くの茂みに隠れ両手を開く。

ドローンはは360度回転し、周りを見渡すと激しく光っていた赤色灯は点灯を止め、それはすーっと空間に溶けるように消えていった。

それを見た僕ははぁっと一息ついた。

あれに当たったら死んでたよな?

街路樹があった空間を見ながら胸をなでおろした。


「おい」

安心したのもつかの間、突然の呼びかけられ変な声が出た。

振り向くと真っ赤な髪をしたウルフカットの男が立っていた。

「おまえ、さっきデバッガーにやられてただろ?」

「どうやって逃げた?」

「WorldHackerのようだがAdminの人間か?」

何を言ってるんだこいつは

ヤバイやつにからまれてしまった。逃げよう。

僕は踵を返すと全速力で逃げ出した。

しかしそいつはとても人間ができるとは思えない速度でとんでもない距離をジャンプして僕の前に着地する。

まさかこいつさっきのドローンの仲間か?

ならもしかして、と僕は両手に力を込め強く握り全力で走る。

後ろをちらっと振り返るが、やはり微動だにしない。

このまま公園の外まで逃げ切ろう。

そう思っていたのだが走り出してしばらくすると右手が攣りそうな痛みに襲われた。

その痛みはどんどん強くなり右手がねじれてちぎれてしまいそうなほどになった。

たまらず握った手を解く。

それでもこれだけ距離を離せば逃げ切れるかも。

そう思い再び後ろを振り返ると、そいつはまたとんでもない速度で飛んできた。

「にがさねぇぞ」

男が前に手をかざすと手のひらから燃え上がる大きな炎が出現した。

男は手から落ちるその炎を右足で蹴り跳ばした。

大きく広がりながら跳んできた炎は僕の頭上を通り過ぎ行く手を塞いだ。

ゆっくり近づいてくる男。

僕は両手を握ろうとしたが右手の痛みは治まってなく力が入らなかった。

万事休すかと思ったとき男を刃のような氷塊が襲う。

飛来した氷塊を男は右足で受けると氷塊は弾け霧散する。

氷塊の飛来した方向を見ると濃紺長髪の女性が立っていた。

男は舌打ちをすると僕を追いかけてきたように大きくジャンプを繰り返し逃げて行った。

代わりに今度は女が近づいてくる。

こいつは大丈夫な奴なのか?少し身構える。

ゆっくり近づき何やら写真入りの手帳のようなものを提示すると

「ご安心ください、世界機関Adminの青葉と申します」

と、名乗った。


青葉を名乗った女にひと先ず安全な場所に案内すると言われ僕は連れられこのビルの一室にきていた。

僕は小さな会社のような室内の応接スペースのようなところに通されゆったりとしたファーに座って寛がせてもらっていた。

先ほど起きた強烈な体験に心音は未だ少し早いままだ。

ふと、会社のことを思い出し、しまったと時計を見る。

時計は10時半を指していた。

僕は慌てて会社に電話をする。

今日はおそらく出社できそうにないので欠席をつたえる。

理由は……本当の事情を説明しても分かってもらえないだろうと、体調が悪いので病院に行くということにした。

電話を終えると応接スペースを仕切るパーティションがノックされお盆にお茶を乗せた青葉が入ってくる。

「お茶をどうぞ」

お茶がテーブルに置かれる。

お茶を一口飲んでふぅと息をつくと青葉は話しかけてきた。

「おちつかれましたか?」

「色々混乱していると思われるのでいくつか説明をしますね」

僕は同意する

「まず確認ですが。貴方はWorldHackerであってますか?」

WorldHackerあの男も言っていた気がするが……

WorldHackerとはどういった意味なのか尋ねる。

「あ、そうですね。それでしたら、貴方は通常ではありえない能力が何か使えませんか?」

通常ではありえない能力?と、言われても運動も勉強も仕事も普通か少し下くらいだし……思い当たらないと伝える。

「赤神に追われていた時に、瞬間移動をしていましたよね?」

瞬間移動?!赤神ってのは多分あの男のことだろう。

しかし逃げているときにそんなことをした覚えはない。

僕は両手を握ってあいつが動かなくなって……

そこまで思い出しているともしかしてと思いつく。

もしかして、あれはあいつが動かなくなってたんじゃなく周りの時間ごと止まっていたのか。

「どうでしょう?思いだしましたか?」

「大雑把に言えばWorldHackerとは、ああいった超常現象を発現できる人のことです」

「私たちAdminはそういった人たちの監視をし不正な行為をするものがあれば対処するなどの活動を行っている世界組織です」

「先ほど貴方を追ってきていた赤神もそういった行為を行っている対処の対象になります」

「貴方がその能力を使えるようになったのは最近ですか?」

僕はそうだと答え、昨日の夜焼けた木の横で漆黒の光るモノに触れたことを話した。

「そうですね。では、その時に感染したのでしょう」

感染!?何か良くない感じがする。

不安そうに質問する僕に青葉は順を追って説明してくれた。

「いえ、差し迫っての危険は無いです」

「ただ、デバッガと呼ばれる四角い機械に追われたり、能力を過剰に使用すると運が悪ければ身体ごと消し飛んだりする可能性はあります」

四角い機械……あのドローンのことだろうか。

それと、身体?!が消し飛ぶ?!

「最悪の場合の話です。無茶な力の使い方をしなければ平気です」

不安と驚愕が顔に出ていたのだろう。青葉は大丈夫だと言ってくる。

「能力発動時に痛みが現われることがあれば、使用しすぎのサインですので気を付けてください」

赤神から逃げてる時にあった右手の痛み……あのまま使っていたらやばかったのかもしれない。そう思うと肝が冷える。

「あと身体的な変化でしたら。個人差もありますが、一般的な現象からの影響を受けなくなっている場合があります」

「そうですね例えば私の場合ですと、食事によるエネルギー補給が不要になっていますね」

「他にも、物理的に損傷を受けなくなったり、温度変化による影響を受けなかったり、様々あります」

「どうですか?何か変化は思いつきますか?」

少し考えたが思いつかないので思い当たらない主旨を伝える。

「そうですか、それでしたら一度近くのAdmin支部にいらしてください」

「そちらで、能力の検査や詳しい説明をしましょう」

僕はそれに同意し、日曜が良いことを伝えた。

「では日曜にこの場所で、それとこちら連絡先です」

と青葉は支部の場所のメモと連絡先を渡してきた。

「一応、かけてもらってもいいですか?」

電話をかけると青葉の電話が鳴った。

「大丈夫そうですね」

「近くに危険な反応もありません。そろそろ外でに出てもいいでしょう」

わかりましたと同意し荷物を持ち出口に向かう。

出口で挨拶を交わすと僕は帰路についた。


日曜日、僕はAdminの支部に来ている。

家から電車で5駅ほどの支部は大きめの研究施設のような外観をしており都市に溶け込んでいた。

朝ここにきた僕は面談室のような場所でWorldHackerとAdminについての説明を受けてきた。

要約するとWorldHackerはバグに感染して超常の現象を使えるようになった者、adminはWorldHackerの監視やバグについての研究を行っている世界組織とのことだ。

adminの創始者は昔、神と戦って死んだらしくadminの技術は創始者が残した遺産を元にしているらしいが、神だなんだは流石に誇張されているのではないだろうか。

そうしているうちに昼になったのでこの食堂でお昼をとりながら休憩しているところだ。

朝買ってきたコンビニの唐揚げ弁当をつついていると声をかけられた。

「こんにちは、ここいいですか?」

向かいに青葉が立っていた。

僕はどうぞと声をかけ、手を向ける。

「ありがとうございます」

そういって青葉は向かいに座る。

その手に持っているお盆には似つかわしくない巨大なカレーを持っていた。

見た目に反してめちゃくちゃ食べるな、と考えていたら先日の身体的変化の話を思い出した。

青葉は食事が不要と言っていた気がする。

気になったので聞いてみる。

「そうです、生きる上で私に食事は必要ありませんし、食べてもどこかに行ってしまいます」

???

「おいしいからです。食事の楽しみまでは無くなっていないので」

不思議そうな顔の僕に答える。

まぁ、確かにおいしいものを食べるのはうれしいか。納得できなくはない。

そうこうしながら唐揚げ弁当を空にした頃には午後の検査の時間が近くなっていた。

「午後は検査と能力の指導ですね。能力の指導は私からおこないますのでまた」

青葉は山盛りのカレーを食べ終えそう言うと立ち上がり再び社食の列に並んだ。

そろそろ行くか。

僕も席を立ち、食堂を後に指定された場所に向かった。


検査室、ここが指定された部屋のようだ。

失礼しますと声をかけて部屋の扉を開ける。

「やあ、新しいWorldHackerの子だね」

迎えてくれた職員は、どうぞこちらにと、診察机の前の椅子を指す。

僕が腰かけると、僕の名前が書かれたカルテのような紙を提示し

「これで名前はあってる?」

と聞かれたので合っていることを伝えた。

「じゃあ、これから検査をするね」

職員はメモリのような小型電子機器を取り出し、先端の接続部を僕の腕に突き刺した。

電子機器の接続部はそんなにすんなり肌に刺さるとは思えない形状だったが今見る限りしっかりと差さっている。

「大丈夫、すぐおわるからね」

と、目を丸くする僕にまるで注射でもしているかのように軽く言う。

しばらくすると電子機器からピーっと音が鳴りランプが点灯した。

職員は電子機器を手から抜くと

「はい、おわりー。痛くなかったでしょ?」

と言った。

確かに、痛みはなかったが……少し驚いた。

奇妙な現象、この職員もWorldHackerなのだろうか。

気になったので聞いてみる。

「いや、ぼくは違うよ。ただコレはAdminの技術能力者が作ったツールだからそう見えるかもね」

そう言うと電子機器を摘まんで振って見せる。

「それで、コレをパソコンに刺せば君のデータが表示されるから、そのデータから普通の人間クラスに存在しない記述を見つけるのが僕の仕事ってわけ」

ソレをパソコンに刺すとディスプレイには何やら大量の文字が表示される。

職員はフムフムとうなずきながらディスプレイを見ている。

「きみ利き手はどっち?」

突飛な質問にあっけに取られながら右手だと伝える。

「はいはい、右手ねー」

そういいながら画面をスクロールしていく。

「えーとじゃあこのあたりかな」

「どれどれ、ん-これっぽいな」

「君の能力は何か動きを止める感じかな?」

まぁ合っているか。それに頷く。

「じゃあ多分これだね。」

「君の右手のgrasp()にはstop()の命令が上書きされているようだね」

「握りしめたモノの処理を停止する感じかな」

「拳をただ握ったら何を停止するのかな?」

両手じゃなくて右手だったのか、僕はおそらく時間を止められることを伝える。

「ほーそいつはすごいね空間か世界のインスタンスを掴んでいる判定になってるのか?」

何やらブツブツつぶやいている。

「あ、いや、すまないね。珍しい能力だったからテンション上がっちゃった」

「でも、世界や空間に影響するレベルだから、おそらく長時間は難しいんじゃないかな」

長く使っていたら右手がちぎれそうな痛みに襲われたことを話す。

「あーそれは危なかったね」

「能力は過度に使用するとそういうことが起きるんだ」

「そのまま使用を続けてたら最悪、超常の現象が起きて身体が無くなってたかもしれない」

超常の現象ってどんなのだろう。

気になったので聞いてみる

「んー様々あるけど、身体が物理法則を無視して伸び縮みを繰り返して捻れながら小さくなって消えてくとか」

思っていたより壮絶だった。

「まぁ、運が良ければ新しい能力発生することもあるんだけどね」

「それでも、命あってのものだからね」

「今後は気を付けて使うといいよ」

「身体的な変化の方はぱっと見でどこに変化が起きているかわからないからまた見とくよ」

「次は能力の指導だったね」

「ここを出て左に行くと訓練室があるからそこで待っててね」

僕はお礼を伝えると検査室を出て訓練室に向かった。


訓練室でしばらく待機していると扉が開き青葉が入ってくる。

「お待たせしました」

「検査はどうでしたか?」

僕は自分の能力がstop()であることと、身体的変化は今調べてくれていることを伝える。

「なるほど、握った対象の処理を止める能力ですか」

「便利そうないい能力ですね」

「今日はその能力の使い方について使用に危険がないよう簡単ですがレクチャーしていきます」

「能力の確認ができるものがいいですね」

少々お待ちください。青葉はそういうと部屋を出ていき数分して戻ってきた手にはストップウォッチを持っていた。

「それではこちらをどうぞ」

そういうと、ストップウォッチを渡される。

「スタートを押してから握って能力を使ってみてください」

言われたとおりにスタートを押して握る。

するとカウントが止まる。

「確かに、カウントが止まってますね」

「放してもらっていいです」

カウントが再開する。

「もう一度、握ってみてください」

「ただ、今度は能力は使わないでください」

どういうことだ?僕は尋ねる。

「能力は確かに握る行為に引っ付いているようですが、このままですと普通に握りたいだけの時に困りますよね?」

「そこで貴方には能力は使わず元の機能だけ使用する方法を覚えてもらいます」

「少し訓練が必要かもしれませんが、感覚さえ理解できれば絶対に便利ですので」

確かに握るたび能力が発動してしまうのは不便な時もあるだろう。

「では、どうぞ」

「握るときに能力を発動させないよう意識してください」

こうか?意識しながらスタートさせたストップウォッチを握る。

カウントは止まる。放す。もう一度握る。

何回か繰り返していると握ってもカウントの止まらない瞬間を見つけた。

もう一度握る。カウントは進み続けた。

「随分早かったですね」

青葉は驚いたような顔でそう言う。

「今日中はかかると思っていたので一般的な人より大分早いです」

そうなのか、まぁ手間がかからなくて良かった。

「もしよろしければAdminに来ませんか?」

「コントロールも上手ですし、能力も申し分無いいい能力です」

「Adminでも活躍できると思いますよ」

活躍できる……か。

少し心惹かれる。

今の会社では活躍という程の事は出来ていない。

仕事時間だけはめちゃくちゃ多いが……

考えておきます。と、お茶を濁す。

「そうですか、では考えがまとまったらまた声をかけてくださいね」

「まだ早いですけどひと先ず予定のことが終わりましたので今日はこの辺りで終わりましょう」

「エントランスまで案内しますね」

先を行く青葉についてエントランスまで行く。

「お疲れ様でした。また御用の際は連絡ください」

別れの挨拶を済ますと僕は施設を出た。


用事が早く終わったことで時間が空いた僕は施設の近くにある大型ショッピングモールに来ていた。

せっかく遠出したのだからついでに色々見ていこうとなったのだ。

ショッピングモールの中は日曜ということもあって沢山の人でにぎわっている。

久しぶりのショッピングモールだ、フードコートでクレープでも食べることにしよう。

僕は人波に合わせてフードコートを目指す。

しばらく歩いていたら人波の前の方に目立つ赤髪のウルフカットが見えた。

まさかあの時襲ってきた男か?

名前は確か赤神だったか。

幸い気づかれてはいないようだ。

歩くペースを少し落として離れよう、と思っていたら男は人の多い大通りをずれた。

その先には大きなホールがあり、たまに催しなどで使われているはずだ。

ショッピングモールの入り口には有名人のタレントが来るとかいていたが。

気になった僕はこっそり後を付けることにした。

間隔を開け視線を遮れる物の陰に隠れながらついていく。

幸い、すでに催しが始まって時間がたっているのか辺りにはそれほど人がいない。

故に、このような動きをしても怪しまれることはない。

角を2つほど曲がれば会場の入り口が見えてきた。

大きな扉は閉まってはいるが中から歓声が聞こえてくる。

赤神は扉を少し開くと中に入っていく。

時間を少し置くと続いて中に入る。

ホール内は人で埋め尽くされており、大きな歓声に包まれている。

パイプ椅子が並ぶその間の通路を赤神は壇上に向かい歩く。

最前列まで着くと足を止め、手をかざした。

手のひらから炎が生まれる。

「やめろー!」

僕は手を伸ばし叫んでいた。

ホール中の人が僕を見る。

タレントも僕を見る。

赤神も僕を見る。

赤神はすぐ壇上に顔を戻し、タレントに向け火球を蹴り飛ばした。

火球は身をかがめたタレントのすぐ上を通り後ろにあった舞台セットに当たり炎上する。

チッっと赤神は舌打ちをすると再び手をかざす。

僕は全力で赤神まで走りその手を掴んだ。

赤神の動きが止まる。

会場はパニックになっていて、入り口に沢山の人が押し寄せている。

壇上ではスタッフが消火器を噴射して火を消そうとしていたが、しばらくたった今人が居なくなった僕等の周りを警備員が取り囲んでいる。

「動くな!武器を捨てて手を上げろ!」

と、警備員の一人が叫ぶ。

その言葉は、どうやら僕にも向けられた言葉らしい。

今手を離してしまうと赤神のstop()が解けてしまう。

しかし、能力のことなど話したところで理解は得られないだろう。

観念して手を離し両手を上げる。

「お前もだ!早く手を上げろ!」

「誰に命令してんだ?」

先ほどまで停止していた赤神はイラついた声をあげると警備員に手をかざす。

すると警備員は突如として全身を炎に包まれ叫び声を上げて崩れ落ちた。

突然の超常現象に他の警備員達は目を見開いて口が半開きになっている。

「退け」

赤神はそういいながら壇上に向かう。

警備員は慌てて数人が転びながら飛び退く。

壇上に上った赤神はあたりを伺うと舌打ちをした。

「逃げられたか」

赤神がこちらをみる。

「おまえ、この前のヤツか?何かしやがったな?」

警備員たちは慌てて逃げ去っていく。

「やっぱりadminのヤツだったか」

「逃げられると思うなよ」

そういうと、炎を蹴り放ってくる。

僕は反射的に手を握る。

椅子の陰に隠れると手を離した。

炎は僕がいた場所を焦がしている。

能力を使いすぎたのか少し右手が痛い。

「逃げたか?隠れたか?」

赤神はあたりを見渡しながら僕を探す。

僕は椅子の陰で小さくなり息を殺す。

赤神はしばらくあたりを見回した後出口に向かって歩いていく。

助かった。

もう赤神は居なくなっただろうか?

確認しようと椅子から身体を出そうとしたとき服の袖が椅子に引っ掛かり大きく引きずって大きな音を立ててしまう。

音に気づいた赤神はこちらに炎を打ち込もうと手のひらをかざしていた。

やばいと感じ僕は右手を握り時間を止めようとする。

しかし、その時右手に激痛が走る。

もうだめか。

赤神は落ちる炎を蹴る。

僕は反射的に目を瞑った。

炎の塊が爆ぜる音がした。

でも、不思議と痛みはない。

というか、僕は燃えていない?

むしろ寒ささえ覚える冷気を感じる。

僕の前には氷の壁が出来ていた。

「お待たせしました、ケガはありませんか?」

青葉のこえがした。


何でここに?

「adminの方に通報があったのですぐに駆け付けたのです」

「本日ここで行われていた講演はadminの支援者によるものだったので能力者が暴れているということで通報があったのです」

「幸い支部から近かったですぐ来ることができました」

「ここで隠れていてください、赤神を拘束しきます」

青葉は銃のようなものを構え赤神の方へ向かっていく。

「もう、着やがったか」

「お前とは相性が悪い」

「またな」

赤神は出口に向かって跳躍する。

しかし青葉が空かさず出口を銃のようなもので撃つ。

すると出口は巨大な氷壁に封鎖され、赤神は氷壁の前に着地する。

「今日は逃がしません」

「非常口も封鎖済みです」

「おとなしく捕まってもらいます」

「そうはいかねぇな」

赤神は跳躍しながら青葉に向け火炎を蹴り放つ。

青葉は咄嗟に横によける。

火炎は青葉のすぐ横を通り過ぎると背後の床を炎上させた。

青葉はすぐさま体勢を立て直すと、銃のようなものを赤神に向けて数発放った。

しかし跳躍を繰り返し、まるで飛んでるように動き回る赤神には当たらず、その背後にあった壁に当たり、壁に大きな氷塊を生成した。

「おう、危ない危ない。そんな危ないものは人に向けちゃ駄目だぜ?」

「おら、お返しだ」

赤神は着地すると近くにあったパイプ椅子を左手でつかみ掴み炎上させると、青葉に向け蹴り飛ばした。

青葉は正面に両手を重ねて構える。

瞬時に大きな氷壁が生成され高速で飛来する炎上するパイプ椅子を防いだ。

炎に焼かれた氷壁からは大きな水蒸気と蒸発音が周囲に広がり氷壁の表面が砕けた破片が周囲に飛び散った。

赤神がもう一つパイプ椅子を持ち上げようとする。

そこで異変に気が付く。

椅子が持ち上がらない。

近くに冷気を感じる?

足元を見ると床全面が10センチほどの氷に覆われている。

すぐさま身を屈めた赤神の上を青葉が放った銃弾が通過する。

「もう逃げられませんよ」

青葉が一気に距離を詰めようと走り出す。

が、赤神の周りを大きな炎が守るように包み込む。

周囲の氷が蒸気となって視界を覆う。

蒸気の中から飛び出してきた赤神は一直線に青葉に向かって跳躍していく。

水蒸気で視界を奪われている青葉は赤神の動きに気づけていないようだ。

跳躍してきた赤神は青葉の後ろに着地しようとした。

しかし着地した地面は未だ凍ったままだった。

大きくバランスを崩した赤神は僕の目の前まで転がってきた。

今だ。

右手の痛みが少し治まった今なら、ひと一人くらいなら止められる!

僕は右手を伸ばし起き上がろうとしている赤神を掴む。

赤神の動きがぴたりと止まる。

青葉に赤神の動きを止めたことを叫んで伝える。

青葉はすぐ駆け付けると赤神に電子機器のようなものを突き刺した。

しばらくすると電子機器から音がしてランプが点灯した。

「もう解除してもらっていいですよ」

僕は握った手を放す。

すると赤神はその場に崩れ落ちた。

「大丈夫です。彼には眠ってもらいました」

「助かりました。最高のタイミングでしたよ。ありがとうございました」

おわった。

先ほどまでの張りつめていた空気が解けたことで力が抜けて座り込んで大きく息を吐いた。

僕でも役に立てた。

久しぶりに誰かに感謝された。

最近、怒られることこそあっても感謝何てされることはなかったな。

久しぶりに暖かい感情を感じる。

もしかしてここなら僕もまた役に立てるかもしれない。

ふとAdminに来ないかと問われていたことを思い出した。

その話はまだ有効か尋ねる。

「もちろんです!WorldHackerは常に不足してますので」

僕はその話を受けたいと伝える。

「助かります覚えることや危険も多いですが一緒に頑張りましょう」

青葉の笑顔に強くうなづいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る