愛されなかった社畜令嬢は、第二王子(もふもふ)に癒やされ中

かのん/ビーズログ文庫

プロローグ


十歳の誕生日。

 私はしきの図書室で見つけたほうじんの本にりょうされた。

 最初はそうていの美しさに目をうばわれ手に取った本だったのだけれど、表紙を構成する文様や記号の意味を調べ、由来や用途について知れば知るほどに、こころかれていった。

 そして、初めてえがいた魔法陣が、私の中に流れるりょくおうしてかがやいたしゅんかんに、今まで感じたことのないこうようかんを得た。


「すごい……すごいっ! 私の魔力に反応している! お母様にきらわれた、私の魔力に」


 光る魔法陣を見つめながら、初めて、自分の存在が認められたような気がしたのだ。

 名門貴族、メイフィールドこうしゃく家。

 私はすえむすめとして、メイフィールド家に生まれたけれど、メイフィールド家のそこないと呼ばれていた。

 きんぱつへきがんが血筋のメイフィールド家ではめずらしい黒髪赤目の私の誕生は、お父様とお母様の間にれつを招いた。

 お父様は私のことを不義の子だと言い、お母様はお前のせいで疑われるのだとののしった。

 そして赤い目で生まれたばかりか、魔力を大量に有していたことがさらに私が愛されない理由となった。

 はるか昔にアルベリオン王国をほろぼしかけたものが赤いひとみを持っていたという伝承があり、赤目は不幸を呼ぶとうとまれていたのだ。

 魔力だけならばほう使つかいの才能があるとされ、本来ならば喜ばれるのだという。

 だけれど、そこに赤目が重なったことで、ますますされる結果になった。

 メイフィールド家のはじにならないように魔物のような瞳をかくせと眼鏡めがねわたされ、髪の毛は出来るだけ目立たないように二つにくくり魔力を持つことも秘密にした。

 私は輝く魔法陣を見つめながら、こぶしをぎゅっとにぎりしめた。


「決めた。私、魔法陣を描く仕事をしたい」


 初めて自分の心の中に生まれた夢だった。

 たった一人、公爵家のべっていに追いやられて暮らしていた私は、これまで生きる目標も何もなかった。

 ただ、生きていただけだった。

 けれど、今はちがう。


「魔法陣を描く仕事にいて、この家を出ていこう」


 両親や兄や姉は、私のことなど、この家のてんとしか思っていない。

 なら、私は自分の好きなことをして生きていきたい。

 愛されたいと願ってもその願いはかなうことなどないだろう。

 それは、これまで生きてきた日々ですでに理解をしていた。

 悲しいけれど、それが現実なのだと私はあきらめたのだ。

 でも、魔法陣を描くことを私は諦めたくはない。

 ずっと共に生きていきたいと私は初めて自分の中に強く思った。


「だって……魔法陣は、私にこたえてくるもの」


 ひとりでもいい。

 私には魔法陣がある。

 私は十歳のだれにも祝われない誕生日に、そう決意をしたのだった。

 魔法陣、それはかつて人の生み出した大規模な魔法を発動するための機構である。

 ただし魔法陣を動かすためには大量の魔力が必要であり、少なくとも十数名の使い手を集めなければならない。非効率とされた魔法陣はすい退たいいっをたどり、一部を除き現在ではほとんど使用されなくなっていた。

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