第2章 淫逸

朝からショッキングなニュースを見てしまい、僕はよろめきながらも身支度をし、家を出た。今日は人に会う約束がある。平沼 愛莉。彼女とは知り合ってから2か月ほどが経つ。

彼女とは友人に無理やり連れていかれたクラブで出会った。僕はあのクラブの雰囲気になじむことなどできずにただ友人が飽きるのをまだ少しは静かな喫煙所で煙草を吸いながら待っていた。別にそんなところで吸う煙草は決して美味しいとは思えなかった。たまに泥酔した女性2人組が入ってきて声などもかけられるがいったい何が楽しいのか理解することができなかった。何か盛り上がる音楽でもかかったのだろうか、喫煙所にいた人たちがいなくなり、とうとう僕一人になってしまった。

これで少しは落ち着いて煙草が吸えると思っていたその時一人の女性が入ってきた。彼女こそが平沼愛莉である。なんだまた人が入ってきたじゃないかと思い見てみると彼女の顔はどこか寂しそうな顔をしていた。彼女のライターはオイルが切れているようだったので僕のライターを貸した。

「ありがとう。」

と彼女は素っ気なくライターを僕に返した。

「いいえ。」

僕も合わせるように素っ気なく返事した。

「楽しいですか。」

と聞かれ僕は少しドキッとした。まるで自分の心が見透かされたようだった。見られたくないものを見られてしまった気分になり少し恥ずかしくなりながら、

「まあ。」

と答えた。

「だって顔に出てるんだもの、お兄さん。」

自分でも何となくわかってはいたがやはりそうであったか。

「ここに来たら少しは寂しさでも紛れるんじゃないかと思ってきてみたけれど僕の希望は儚くも塵になってしまったね。」

ここで出会う人間などもう会うこともないだろうし別に何を言っても構わないだろうと思い呟くように口にしてみた。

「もう出たい?」

と聞かれ、

「うん、まあ。」

と答えると

「じゃあちょっとこれから付き合ってよ。」

と言われ僕は無理やり連れてきてなかなか帰ろうとせずに女を探している友人には呆れて彼女についていくことにした。

「よし、着いた。」

目の前にあったのは安いラブホテルであった。僕は困惑した。だがまあ面白いこともあるものだと酒も少し入っているし人生経験としてこういったことも面白いだろうと入ってみることにした。特に愛もない快感だけに縋るように行為をした後、お互いの身の上話などをしている内に朝日が顔を覗かせていた。

僕は彼女を駅に送り友人とも多少喧嘩はしたが共に帰りクラブでの一件は終わりを迎えた。この一件の後も彼女とは2週間に一度くらいの頻度で会っている。お互い快楽だけで結ばれた関係というのが楽でそれ以上何も求めていない。今日も安いラブホテルに入りしばらくした後、彼女が僕に言う。

「今日の千里君、心ここにあらずって感じがする。」

僕は、

「気のせいじゃないかな。」

と軽くあしらい、彼女をベッドに押し倒した。1時間もたった後、僕はホテルのソファーに腰かけて一服していた。煙草を吸い始めたのは去年の10月頃であった気がする。僕は愛と出会う前から吸っていたのだが愛と付き合ってからは彼女と同じ銘柄を吸っていた。僕の恋愛傾向として少々恋人に依存し過ぎてしまう節があると思う。現在は当時と違う煙草を吸ってはいるが、やはりほのかに彼女の香りのしてしまう甘い煙草なのである。その甘い香りはどこか彼女の影を感じさせるのである。よく道端で一緒に吸っていたことやうまく火をつけられない彼女の代わりに火をつけてあげたことなどを思い返していると愛莉が僕のことを呼ぶ声がした。僕はふと我に返った。

「ねえ、千里君ずっとぼーっとしてたよ。」

僕は少し戸惑ったが、

「ああ、ごめんごめん。もうそろそろ出ようか。」

と言い、ホテルを後にした。

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