第123話 アーテルの襲撃
次の日……
さっそくまた来店した一条に、朱星は緊張感を滾らせていた。
「おっ、お待たせ致しました!本日の日替わりランチ、牛タン塩定食です!」
「ありがとう。美味そうだな」
その笑みにカッと顔が熱くなるが、朱星は思い切って一条の耳に口を寄せた。
「あの……一条さん……」
全て、颯から伝授された通りに声色も変える。
「よっ、よかったら……その……」
颯はその様子を厨房から見守っていた。
「いいぞ!ガンバレ!朱星さんっ!」
「その……えっと……」
「どうしたんです?朱星さん」
「私とっ!で、デート……なんて……し……たくないですよねっ……」
「えっ?」
全く練習通りに上手くいかなかった朱星は一気に顔を赤らめる。
一条とかなり近くで目が合いドキドキと鼓動が煩くなった。
「いやっあのっ、もしよかったら、あの……ここ以外で会えたらなぁ……なんて思っていて……」
そこまで言って恥ずかしそうに視線を逸らす朱星に、一条はしばらく目を瞬かせていたかと思えば優しく笑った。
「朱星さん……是非。私もそうしたいと思っていたので。」
ぱあっと明るくなる朱星に、颯は密かにガッツポーズをした。
よぉし!
ってことは次のステップはデートの場所か!
ん〜…少女漫画定番のデートスポットといえば……
ガタガタガタガタ
突然、地響きがし、颯はよろけそうになった。
「おっとっと!」とスープ鍋を持ちふらついた店長を急いで支える。
「な、なんだ?!地震じゃなさそうだぞこれっ」
揺れはますます大きくなっていく。
「朱星さん」
「えっ」
一条も険しい顔をして立ち上がり、朱星を引き寄せた。
そのとき……
ドガガガガー!!
「「「!!!」」」
なんと天井を突き破られ、
ここにいた客全員が急いで離れていく。
数名は何かを察したのか、会計を置いて一目散に逃げていった。
「っ!誰だ……?」
現れたのは、AとTが重なったようなマントを着ている冷徹な目をした男だった。
そして部下のような男女を2人連れている。
光に聞いていた通り、アーテルのマントだとわかり、そして滾り出すありえないほどの質量のスキルオーラに身震いした。
「お邪魔するよ。
この店にSPIがいるとのタレコミがあったものでね。
なにか知っている者はいるか?」
朱星の顔が一気に青くなり、ガタガタと震え出す。
一条はそれに気がついたように朱星を見下ろした。
しかしその瞬間、朱星はバッと一条を突き放し、一目散に店を出て走り出した。
「追え!」
「「はっ!」」
アーテルの面々が消え、颯は急いでエプロンを取り、朱星を追いかける。
後ろで店長が呼び止めたのが聞こえたが、颯の超高速によって一瞬で掻き消された。
「どこ行ったって無駄だぞ」
「逃げ足だけは速いなサイは」
朱星は、どんなスキルを駆使して逃げても追ってくるアーテルたちに焦っていた。
やはり奴らを相手にすると思うようにはいかない。
しかし、なぜバレたのだろうと考えてしまう。
今までは、何事も無く穏やかな日常だったのに……
「どうしていきなり……」
最近なにか……変わったことが……
ハッとしてしまう。
「まさか、颯くん……?!
それとも……っ」
グガガッ!
ドンッ!
突然壁に張りつけられ、背中を激しく打ち息が詰まる。
手足が壁から動かせなくされていて、目の前には既にアーテルの3名がいた。
「うまくオーラを隠しているようだが、
お前が鷲谷の娘で間違いないな」
「っ………」
鋭い目線を突き刺してくるだけの朱星に、リーダーと思わしき男は口角を上げた。
「巧妙に逃げ隠れしていたな。
まさか我々の目を欺くほどのスキルまで会得していたとは……いやはや、やはり奴の娘は、」
「違うっ!」
「ん?」
「私はっ……鷲谷の娘じゃない!
血は繋がってないし、か、関係ないっ!」
「……ほう?
ならば……今ここで殺してその死体を持ち帰っても、何の問題もないということ……」
ギギギギギギ
「ぅあぁあっっ!!」
「鷲谷への人質は、要らんということだからな……」
張り付け状態になったまま、身体が激しく締め付けられていく。
「だが鷲谷の居場所くらいは知っているだろう?」
「しっ、ら、なっ、い……っ」
ギギギギギギ
「あ"ぁぁああっっ!!」
「大人しく吐けば、お前の命も奴の命も、助けてやらんこともないぞ?どうだ?ん?」
ますます強くなる締め付けに、朱星は今にも意識を失いそうだった。
痛い……苦しい……
どうして……何も悪いことをしていないのに……
ただ生きているだけなのに……
どうしていつも……私たちは……
普通に生きることを許されないの……!
ザザッー!
「っは!はぁっ……はぁっ……」
意識が途切れそうになった瞬間に突然呼吸ができるようになり、自分の身体が束縛から放たれたのが分かった。
頭が朦朧とする中うっすら目を開けると、一条に抱えられているのが分かった。
「い、ち…じょ…さ……」
一瞬だけ目が合った一条は真顔で、そして朱星を抱えたままガードのようなもので攻撃を弾き飛ばしている。
アーテルの者たちもその力に明らかに驚いた顔をしながら攻撃を強めている。
「貴様もサイだな!また鷲谷の犬か!
貴様ら2人、まとめて処刑と行きたいところだが、貴重な人質だ。
半殺しにして連れていくぞ」
シュシュシュシュー……!!
バガゴゴゴゴゴー……!!
ぐったりとしている朱星を肩に担ぎ、一条は凄まじい速さで全ての攻撃を弾き飛ばしつつ、さらにダンっ!と手を突き出した。
その圧によって、うっ!とアーテルたちが唸り、一条はその隙に消えた。
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