第111話 他者から嫌われること


日本橋付近で戦っているのは、

モトキ、もみじ、町野姉妹。


そのアダマスエスパーはまるでスナイパーのように弾を正確に撃ち込んでくる。


その上、スナイパー自身は瞬間的にどんどん移動するため追いかけられない。


どこからともなく四方八方からくる弾を避けるのに精一杯な上に、4人とも既に怪我を負ってしまっていた。


しかも瓦礫の中から先程男の子を助けたばかりなため、なんとか庇いながら逃げているというハンデもある。



「なんでこっちは4人もいるのに、たった1人を殺せないの!」


「それは皆思ってるよ、朝凪……」



夕凪が息を切らしながらそう言う。



しかも……



「私の動物たちも、モトキくんのタトゥーたちもいるのに……」



椛が泣きそうな顔でそう呟いた。




「チッ……これじゃキリがないな……

というか、アイツ……」



モトキは険しい顔をして辺りを見回す。



「わざと俺らを泳がせて遊んでるようだ」



かれこれ数十分、たくさんの弾の音と楽しそうな笑い声が響いている。



……こちらが4人ならば、できることは必ずあるはずだ。

考えろ!アイツは俺らが疲れ果ててぶっ倒れるまでいたぶるつもりなんだ!



「ねぇモトキくん」



夕凪が近づき、建物に隠れながら話しかけてきた。



「……逃げるってのはどうかな」



「?!なにっ、そんなことっ」



「だってこのままじゃ全員死ぬよ絶対に…

私たちのスキルとアイツのスキルは相性が悪すぎる。」



「それは……そうだが……」



自分たちのような物量戦タイプでは、このスナイパーのように一切休むことなくひたすら広範囲に攻撃を仕掛けてくる俊敏さの前には無意味だともう気づいている。



「った……」


「酷い怪我だ、夕凪……」


夕凪の傷の血を見ながら、モトキは覚悟を決め、自分の太ももに刻まれている大きな鳥の化け物のタトゥーを具現化した。


「一か八か、これに乗って全員で逃げるぞ」


「わかった……」


「だが途中で誰かが撃ち落とされたりとかしても、そのまま高速で移動する。いいな?」




鳥は何とか弾を避けながら、男の子も含め、全員を背に乗せて飛び立った。



「ん?……え?!逃げちゃうの?!

待ってよーーーーおっ!置いてかないでー!」



スナイパーの女は当然追いかけてくる。


ドドドドドドドド


「あ〜んもお!!行っちゃったよー…

逃げるなんて卑怯だぞぉ〜っ!!」



スナイパーが頬を膨らめながら諦めたようにクルリと背を向けた、その瞬間……



バババババババ!!!



「えっ!キャーーっ!!」



大量の猫たちが襲いかかってきた。



油断した!!

そう思いつつ、スナイパーはバンッとスキルを発動して一気に猫たちを飛ばした。


しかし……



「っ?!」



それを見計らったかのように、なんと椛が立っていた。


サイのシンボルマークの描かれている小刀で、ライフルをカキンッと吹っ飛ばされた。


全てが一瞬だったのと、椛の身長が135cmという小ささにスナイパーでも反応できなかった。


しかし、刺されそうになった瞬間にスナイパーは隠し持っていた方の小さな銃を取り出した。


「はぁっ、まさかっ、こんな子供に足元すくわれそうになるとはっ」


銃口を突きつけられた瞬間、椛は覚悟を決めたように目を瞑った。



……どうしてなんだろう。

死ぬ間際って、こんなに落ち着いてるものなんだ。



" 本当に大人ですか? "


" 小学生みたいで可愛いですね。AV女優に興味無いですか?"


" 椛ちゃんてさー、セックスとかできるの?"


" 一緒にいると、危ない奴に見られるから…"


" 犯罪者とか変態みたいなのに見られたくないからあまり近寄らないでくれ "



私には昔から、友達がいなかった。

もちろん恋人も。


体も小さすぎるし、声も態度も子供みたいで。

その大人げなさが周囲をいつも困惑させたりイラつかせていた。


人よりもいろんなことがうまく出来なくて、ダメなところばっかりで。


「アンタの才能って、人をイラつかせることなんじゃないの?」


親にもよくそう言われていた。


皆のオーラはいつも、私を前にするととても不快な色になっていた。


誰も、私のことを好きになんてなってくれなかった。

私はいつも、独りぼっちだった。

でもそれは全部私のせいで、仕方の無いことなんだと思っていた。


唯一、人間以外の動物たちが私に話しかけてくれて、優しくしてくれて、遊んでくれていた。


私の唯一の友達を離したくなかったから、自分の才能のことは完璧に隠していた。


それに、私には生まれつきのアザがなかった。

それが突然発現したのは、動物とよく話すようになってからだ。

耳の裏なんて普段は誰も見ないから、誰も気がついていなくて、私も気がついていなかったけど、身長135cmという平均的な人間よりだいぶ小さい私の生まれつきの何かのせいだったんだと思う。


大人になってからも、この小ささゆえに、生きる上でのハンデが大きかった。


ある日、SKJの人たちに見つかって連行され、もともとできてなかった普通の社会生活と別れた。

でも正直それは私にとって「救い」だった。



" 教えて?君のできることは何?秘密にしてること、あるんじゃないの?"


SKJの研究員たちは、私にとても優しかった。


動物と意思疎通ができると言った時は、ものすごく喜ばれたみたいだった。


だから私は、いくら実験や改造をされようが、マズイ薬を飲まされようが、全然ヘッチャラだった。

むしろ、「必要とされている」「構ってもらえる」こんな環境を気に入っていた。



「おぉ……すごい!

すごいぞ!イレブン!これは初だ!」


数字で呼ばれるようにはなったが、動物を操ることに成功してからは更に喜んでもらえた。

ずっと独りだった私を唯一、必要としてくれる人たち。

そのための代償なんて、どうでもよかった。


SKJには私以外にも、一見すると「普通じゃない」人たちばかりだった。

たまに実験として闘わされた「Z」の人たちの中には、物凄く大きい人もいたし、逆に私みたいに凄く小柄な人もいたけど、とてもとても強くて、適わなかった。


強くなれば喜ばれる。

だから私は生まれて初めて「頑張る」ということを学んだ。

それは全て、他者から認められるため、嫌われないため。


だから、そこで仲良くなった被検体の人たちと対戦しなくてはならなくなっても、私は必死だった。


ある日、一番仲の良かった男性と対戦になった。


「椛ちゃんと戦いたくないよ…」

そんなふうに言ってたけど、私は全力で戦い、彼には大きな怪我をおわせた。


私はただ、より多くの人に好かれ、必要とされたかっただけだ。

大嫌いな自分を少しでも肯定できる何かが欲しくて、そのための代償なんてなんだってよかった。

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