第93話 だから立って
アダマスによって、東京を中心に放たれた影憑。
そしてアダマスのエスパーによって、全国民たちが混沌に陥っていた。
全メディアが避難を呼びかけるも、それはいずれ東京以外をも侵略するとの予想から、早くどうにかしなくては逃げ場がなくなっていくだろう。
もうすでにかなりの人間が犠牲となっていた。
「くそ……!なんだよこれ!
地獄絵図じゃねぇかよ!」
持ち場である上野、浅草近辺の影を祓いながら、中條志門は周辺に転がっている人々の死体にグッと奥歯を噛み締める。
「具合悪くなりそうだ……」
遺体なんて正直何度も見てきたけど……殺されてる死体なんて……
「ありえないよもう……なにもかもおかしい…っ!全部信じらんないっ……」
柚が涙を滲ませて崩れ落ちた。
そこへ飛んできた影を、クマが蹴り飛ばす。
「おい!しっかりしろ柚!
立ちやがれヘタレ馬鹿野郎っ!」
「もう……無理…っ…」
「あぁん?!なんだとテメェ?!」
柚を引っぱたこうとしたクマを、志門が止めた。
「待てよ、クマ……
柚さんは……玲二さんのことと八朔のことで…」
「だからなんだってんだ馬鹿か!
テメェらがそんなふうに弱ぇからこんなことになんだよ!人間ってのはどいつもこいつもグズなんだな!」
勝手にしやがれ!と言ってクマは影を祓いに飛んでいってしまった。
志門は蹲っている柚を、眉をひそめて見下ろす。
「柚さん……俺だって驚いたし、辛いよ、八朔のこと……。だけど、生きてたじゃんか、八朔……」
ぐすっ……と鼻をすする音がする。
「大丈夫だよ……きっと八朔も玲二さんも戻ってくる。俺らのとこへ。」
柚は暫く黙っていたが、俯いたまま静かに声を出した。
「うん……そう……だよね……
ごめん、こんなとこ見せて……
私は志門くんのお姉ちゃんでもあるのに……」
その言葉に志門は目を見開き、うっすら笑った。
「うん。そうだよ……だから立って」
その時だった。
ビュンッ!
シュパッー……!
自分たちの目の前が、一瞬真っ暗になったかと思えば、次の瞬間には弾けるように消えていた。
それはまるで、黒いシャボン玉に飲み込まれた瞬間にそれが割れたような感じだった。
「柚っ!何してるの大丈夫?!」
その人物に目を見開く。
「し……雫……」
雫の隣には、伊央里と錦がいる。
「どうしてっ」
「そりゃあこんなことなってたら助けに来るに決まってるでしょ!友達なんだから!」
「っ……」
伊央里が雫に何かを話しかけた後そのまま伊央里と錦は消えた。
「柚っ」
「雫っ」
2人同時に抱き合う。
「はっ!ていうかアンタ!
怪我してるじゃん柚!」
柚の腕の傷に気づいた雫は、急いでスキルで修復し始めた。
それを見ながら、柚が辛そうに声を振り絞り出した。
「聞いて雫……玲二が……っ……」
「え……?」
話を聞いた雫は、グッと奥歯を噛み締める。
「あの馬鹿……!」
なぜ気付けなかったんだろう……
いや、気づけるわけない。
あいつはあんなにも自然で、まるで私たちに、本当の親友への接し方だった。
あれが仮面だったなんて微塵も疑えないくらいの……
柚に対してのそれだって……。
「私がてっきりスパイは雀さんだと思い込んでたから、手紙でそう書いちゃったけど……
本当のスパイ……影憑石も流してたのは……玲二、アイツだったんだ…!」
やられた。
親友だと思ってた奴に、まんまと。
私のこれもきっと、あいつの中で想定内だったんだろう。
わざと雀さんをスパイに見立てて完全に油断させる狙いだったんだ!
「爽斗は……アイツは大丈夫なの?」
「爽斗は……マモさんたちと渋谷を担当してる…」
ドゴゴーン!!
突然建物を突き破ってきた図体のデカいエスパー、そして小柄なエスパーがもう1人。
どちらもアダマスのマントを着ている。
仮面は付けていないため、2人ともまだ子供だとわかった。
「ひゃっは!弱い人間いっぱい死んでるよぉー!兄貴ぃー!」
「あ?弱いんだから当たり前だろうが。おや……」
図体のでかい方は雫たちを見てニヤリと笑った。
「サイが1匹、2匹、3……おやおや」
目が合った志門はガタガタと震え出す。
「あーっ!志門くーん!久しぶりだね元気ー?うん元気そーう!」
小さい方は、大きく手を振りながらこちらに向かってくる。
「
「覚えててくれたんだ!嬉し〜っ!
僕らも覚えてるよ!
……ねぇ……泣き虫志門くん?」
不気味に笑う2人が、前に降り立った。
〜〜〜〜〜
「おいエメっお前!いい加減そっから離れろよっ!まだ居たのかよっ!」
パルコ、ロフト近辺を対処してきた爽斗は、109を離れないエメ子に怒鳴った。
「だって!これが潰れちゃったらウチ泣くで!109はウチの聖地なんやから!これなくなったら何処で服買えばええねん!」
「あ〜もう!クソギャルが!」
ダダダダダダダダと凄い勢いで影をかき消しながら、ウルフに乗ったマモが現れた。
「恵比寿近辺のは一通り片付けてきたよ!
はー…ここもすっげ……遺体の山だな……」
あちこちにたくさんの人間の遺体が転がっていた。
吐き気がしそうだ。
建物は所々崩れてしまっている。
マモは悔しそうに舌打ちをする。
「まさか私らが都内にいる時とはね……
ある意味好都合だけど、これは狙ってやられたんだとしたら……向こうはサイを全滅させるかなりの自信があるんだろう。」
「皆さん!ご無事です?」
「浩輔っ!」
「原宿と表参道は遥さんたちがなんとかっ」
「危ない浩輔っっ」
ザザッ……!
「ふー……間一髪……
つぅか今のなんだったんだ」
瞬時に浩輔をウルフの背に乗せたため、なんとか避けられたその凄まじい斬撃がどこから来たのか全く見えなかった。
しかしマモは感覚が狼並に鋭い。
マモは一先ず、爽斗、エメ子、浩輔を集め、次の指示を出そうとした。
その時……
ズドドドドドド!!!
「「「?!?!」」」
「あぁぁぁあーー!!!ウチの109がぁああ」
突然、109のビルが四方八方から突撃され、瓦礫が落ちてきた。
「ごきげんよう皆さん。
ほら、あなたも挨拶なさい」
「……ちわー」
扇子をパタパタと扇いでいるアダマスのマントを着た女性と、そして不貞腐れたような顔をした少年に挨拶をされた。
「あんたらぁぁあっ!!何してくれてんねんゴルァ!!ウチのいっちゃん大事なもん壊しやがって正気かオラオラァ!!」
「待て、落ち着けエメ子」
完全にいきり立っているエメ子を爽斗が羽交い締めにする。
「ん?そちらのビルのことでしょうか?
ご安心ください。
我々アダマスが、この地をもっと素晴らしいものに変革いたしますので、そのようなビルなどもっと革新的なものに」
「あぁ?誰なんだてめぇらは」
マモの問いかけに、女はハッ!と気がついたように頭を下げた。
「これは大変失礼しました!
申し遅れましたがワタクシ、アダマスの凛、こちらは息子の蘭でございます。
といっても、あなたがたとはここでお別れなので、名乗ってもあまり意味が無いのですが、自己紹介は礼儀ですものね…」
挑発的な言葉のわりに、所作が不気味なほど上品なこの女、凛はフッと笑い、扇子をパッと開いた。
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