第57話 亜蘭の過去②
そして数年後、たまたま瞳子ちゃんに会ってしまった。
すぐに分かった。
どう見てもあの頃と変わらない瞳子ちゃんだったから。
あの頃と変わらず、天使の輪っかを持つ美しい瞳。
そして僕もどう見てもあの頃と変わっていないから、すぐに気づいてくれた。
「すごーい!本当にそのまんまなんだね。」
「うん。変わらず王子様でしょ!」
僕は正直、平常心を保つのに必死だった。
だってあんな何年もずっと片思いして振られ続けていた女の子が今目の前にいるのだ。
しかもあの頃よりも綺麗な女性になっている。
今はれっきとした女子大生1年目らしい。
「どこで何してたの?急にいなくなったからビックリしたんだよ。」
「あ、うん、ちょっと親の都合でいろいろとね……。今は知り合いの会社で働いてるよ」
「そうなの?まぁでも元気そうでよかった。相変わらず王子様な外見いい感じだし!」
そこから急接近。
まるで昔を取り戻していくかのように、度々会うようになり、普通の友達関係に戻ることができた。
「僕のお姫様に……なってくれない?
あれからもずっと、僕は君のこと好きなままだから。」
ちゃんと王子様らしく、片膝をついて瞳子ちゃんを見上げる。
公園のベンチでなんて、漫画や映画でよくあってベタでかっこ悪いと思ってたけど、このとき初めて気が付いた。
ここはなぜか、人をそういう雰囲気にさせるんだ。
真っ直ぐと瞳子ちゃんを見つめると、彼女は何を考えているのか分からない無表情で沈黙している。
「あのー、瞳子ちゃん……僕、」
ザザッー……
え……?
瞳子ちゃんの後ろに、一人の男が現れた。
黒いサングラスをかけていて、黒髪の辮髪。その長い三つ編みが風で揺れている。
そして、なんらかのスキルを溜めた人差し指を、彼女の頭に突きつけていた。
「どうも。亜蘭くん」
「な……何者だ!その子から離れろ!」
瞳子ちゃんは、無言のまま振り向けずにいる。
僕が急いで立ち上がろうとすると、「動くな」と制止され、そのまま片膝の態勢で下唇を噛む。
なぜだ?!なぜ気配に気づかなかった?!
こいつは誰なんだ!!
「こちら側におとなしくついてくれば、何もしない。
俺のスキルは記憶の抹消。
お前が来ないなら、この子から記憶を消す。
さぁ、交換条件だよ」
そこでピンと来た。
僕を狙っているということは、国の機関だ。
僕のスキルは、目が合わないと発動しない。
この男はサングラスをしているため、僕は今、なにもできない。
「ずっと出番を見計らってたんだが、なかなか1人にならないから、もう痺れを切らしたよ。面倒ごとは避けたかったからな。
にしても……まさか恋愛か?誰彼魅了する能力のあるお前が?」
「っ……。頼むからその子に何もしないでくれ。関係ないだろう」
「ならこちら側へ来てくれるよな?お前の才が必要なんだよ亜蘭くん」
分かってる。僕の才能は、使い方次第では国をも変えてしまうくらいに危険なものだということくらい。
だからこそ、僕は簡単に組織を変えることは出来ない。
でも……この状況は……?
今まさに、僕の目の前で瞳子ちゃんと世界を天秤にかけられている。
ならば僕の選択は、瞳子ちゃんに決まっている。
僕はずっと、世界平和なんてことよりも、瞳子ちゃんのことを考えてきたからだ。
「亜蘭くん……ダメだよ……」
「っ!」
YESを出そうとした瞬間に、瞳子ちゃんにそう言われてしまった。
「……大丈夫だよ瞳子ちゃん。僕たちの話に巻き込んでごめん。実はちょっとした喧嘩中なんだ、でも」
「知ってたよ」
「……え?」
「亜蘭くんのこと……ずっと知ってた」
目を見開いて言葉を失っている僕に、瞳子ちゃんは眉を下げて微笑んだ。
「だって、私の本当の才能は、裁縫じゃないから。
相手の……未来を見ることだから…。」
耳を疑った。
だって……ってことは……
僕がいつもどう過ごしてたかも知っていて、これからどうなるのかも知っているということだ。
「ごめんね……本当はこうなること、わかっていたのに……」
「とっ、瞳子ちゃん、それどういう」
「私たちがもし……付き合ってたら……
亜蘭くんが………。だからこの道しかなくて……」
目に涙を溜めだす瞳子ちゃんに、僕はわけがわからず言葉を探していると、男が口を開いた。
「へぇ……なるほどな。てことは、お前がこれからこちら側に来ることも想定済みってわけか」
「違う……亜蘭くんは行かない」
瞳子ちゃんは力強くそう言うと、
「逃げて亜蘭くん」
そう言って首を後ろに倒し、男を見上げた。
「亜蘭くんじゃなくて、私が行く。」
「………ほう。」
「ダメだ!!!!」
僕は驚愕して制止したが、覚悟を決めたような強い彼女の眼光に、男は笑いだした。
「ハハハッ、度胸ある女は嫌いじゃないぜ!
しかもこっちの方がお前なんかより価値あるかもしれねぇしなぁ」
僕の方を見てニヤリと笑い、
「瞳子ちゃんだっけ?
なら、亜蘭の記憶は消させてもらうぜ」
彼女が頷くのと同時に、僕は男に攻撃しようとした。
しかし、たったひと払いで跳ね返された。
「瞳子ちゃん!!!」
「大丈夫だよ亜蘭くん……
私、きっといつか、亜蘭くんのこと思い出すから」
瞳子ちゃんは、目を細め、どこか懐かしそうに僕を見つめている。
「だって私はきっと……私の心の奥底で、亜蘭くんのこと忘れられないもん。
亜蘭くんは王子様でしょ?」
その言葉に、ハッと目を見開く。
"忘れられないほどのインパクトがある王子様じゃなきゃ"
そう言ってあの頃何年もずっと振られ続けていた。
ずっと分からなかった、その言葉の意味……
そっか……
こうなることをわかってたから……
僕のことを忘れないようにって……
「ダメだっ……や…やめてくれっ……」
大好きな人の記憶から、僕が抹消される。
それは、想像しただけで吐き気がする。
やっと……やっと会えたのに……
どうしてまた………取り上げられなきゃいけないんだ!!
「王子様は、お姫様を助けるのを、絶対諦めないんだよ」
「瞳子ちゃんっ……」
「忘れるわけない」
「やめろーーーーーっ!!!!」
奴の術が発動する直前に、瞳子ちゃんはこう呟いた。
「だってほら…こんなにインパクトがある王子様いないもん」
最後に見たのは、僕の顔を目に焼きつけるようにして優しく微笑む切ない瞳子ちゃんの顔。
そこからの記憶が、僕はない。
遅れて僕を探しに来た、当時まだ若かった京さんという女性エスパーが言うには、その時の僕は、ベンチに座ってまるで魂が抜けたように呆然としてたらしい。
それから僕は、ずっと瞳子ちゃんを捜してる。
僕にとってのお姫様は、ずっと彼女だけだ。
お姫様っていうのは、いつもどこかに囚われていて、そう簡単には手に入らないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます