第52話 亜蘭フェルナンド



「紳士淑女の皆さん!大変長らくおまたせ致しましたっ!本日の主役!亜蘭フェルナンドの登場ですっ!!」



白いスーツに身を包み、セミロングの金髪を美しく纏めた、さながらおとぎ話の中の王子様気取りで登場した亜蘭は周りの歓声に包まれながら、これでもかという程カッコつけている。

それがまぁ実際カッコイイのだからどこか憎めない。



しばらく、亜蘭の挨拶やら歌やらなんやかんやとうるさい催しをして、まるで結婚式と勘違いしてしまいそうだった。

そして忙しそうに各テーブルを回り、ようやくこちらに向かってきた。



「やぁ!光くん!朧くんも来てくれてありがとうッ!どお〜?楽しんでる〜?」



「あ……はい。

なんていうかホント、凄い世界なんですね」



「光くんには少し刺激が強かったかな〜?

でもこれも社会勉強だよ♡♡」



各種メディアも来ていて、先程から何台かのカメラはずっと亜蘭を追いかけ付きっきりだ。

だから今も、光は自分が映ってしまっているという状況に顔が熱くなる。


これはまさか地上波に出てしまうんだろうか…


こんな普段着なんかじゃなくて俺もスーツとかなにかもっとマトモな格好してくれば良かったな……

と思いながらチラと隣の朧を見ると、亜蘭には目もくれず、美味しそうにフルーツを口に運びながら相変わらず自分の世界に入っている。



「おい、亜蘭。」



「あっ!オーナ〜」



「この子たちはお前の弟か親戚かなんかか…?」



光はマズイ!と顔を青くする。

自分も朧もどう見ても未成年だし、いくら亜蘭さん招待客とはいえ、絶対にバレた……!


言い訳を考え始めた瞬間……




「亜蘭っ!この子たちを是非うちにホストとして迎えたい!知ってるだろう?!俺の目利きは決して外さない!!」



突然凄い剣幕のオーナーに、光は開いた口が塞がらない。

しかし……



「とくにこっちの!この銀髪の美少年!

なんて素晴らしいんだ……!

まるでビスクドールのようじゃないか!」



当の朧自身は完全無視…むしろ周りが視界に入っていない様子で、玲二に写メを送るためにフルーツとの自撮りを始めたりしている。

こんな子より接客なら俺の方が上じゃ?と、

光は不覚にも少々ムッとなる。

別にホストなどやらないしどうでもいいのだが、なんだか悔しい。




「近年稀に見る逸材だよ分かるだろ?!お前をも越えるスターになるかもしれん!この期は逃せない!先程からも、このホールの誰もがこの子に目を奪われている!」



「ははは、オーナー、僕に対してナチュラルに失礼すぎること言ってますけど?」



オーナーはどうしても朧を諦めきれないのか、なかなか引き下がらない。

話を聞いている限りじゃ、亜蘭フェルナンドもおそらくこの人にスカウトでもされたのだろう。



「こんな子がいたら、ピーーーなお客やピーーーなお客が放っておかないし、街全体だけでなく国全体の経済効果までー…」


「オーナーこの子はダメですよ。諦めてください。そもそも、僕を超える男がこの世に現れるわけないので〜。」



ニコニコとしながらほかのボーイに目配せする亜蘭。

数人の若いボーイたちがオーナーを宥めながら引き摺るようにして行ってしまった。




「いやぁ、話の途中に悪かったね。

……朧くーん?マスカットは美味しいかい?」



<シカト>



「……あ、そうだ…えっと、亜蘭さん、言い遅れましたが、誕生日おめでとうございます。」



「ふふ、ありがとう」



ただ一言そう言っただけなのに、その笑みが本物の王子さながらに美しくて一瞬ボンヤリしてしまった。

我に返り、急いで頭を振る。



「で……何かプレゼントをと思ったんですが、何あげていいかこんなに分からないこと初めてで…!

亜蘭さん絶対高級ブランドとか、なんか凄いものとかたくさん貰ってるだろうし…!」



だからコレ!と言い、

気恥しさを隠して差し出したラッピング袋を、亜蘭は驚いたように受け取る。



「え…いいのかい……?プレゼントなんて気を遣わなくていいのに……」



「いえ!さすがに誕生日パーティーに呼ばれて手ぶらなんて有り得ないですよ」



亜蘭は口を半開きにしたままゆっくりと包装を開ける。




「これ……っ」



「もうほんとすいません。そんなもので。

俺の手作りなんですけど、アイマスクです…

家で使うものなら高級ブランドとかじゃなくてもいけるかなって…。

それに亜蘭さん、こんなチカチカな所に毎日いたんじゃきっと目が疲れてるだろうと思って。

目に良い薬草や安眠効果のある香りを入れてて、割とこだわって作ったんですけど、デザインはやっぱ亜蘭さんにとってはシンプルすぎましたかね…っえ?!」



羞恥を隠すためについペラペラと喋ってしまったことに気が付き、ふと亜蘭を見ると、亜蘭はアイマスクを見つめたまま……なんと涙を流していた。




" だから亜蘭くん。みんなに好かれることを、恐れちゃダメだよ?

王子様はずっと、王子様らしくいなくちゃ"




「っあ、ごめんごめん!なんでもないよっ!ちょぉっと懐かしくなっちゃってさ!嬉しいよこれ。本当にありがとうっ」



涙を拭きながら笑って誤魔化す亜蘭は、カメラを構えっぱなしのスタッフに向かって、「今のカットだよ!」と言ってからすっかりいつもの亜蘭に戻っていた。



「あっ!もうすぐシャンパンタワー始まるから、2人ともほらっ!一緒に向こうに行こう!」



光は、まだもぐもぐと口を動かしながらスマホを弄っている朧を引き摺り、亜蘭の後ろを追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る