第5話 中條志門

志門に手を引かれずんずん進んでいく廊下ですれ違う人たちは皆、光に話しかけたり手を振ったりしている。


その時、たまたまふと視界に入ったのは、車椅子の自分と同い年くらいの少女、美乃里だった。

彼女はいつも1人で静かに窓をぼーっと見つめていることが多い。


何度か話しかけてはいるが、全く返事がないのだ。

声が出ないとか耳が聞こえないとか何かしらあると思っていたのだが、看護師が言うには、単純に人嫌いだからということらしかった。

どうすれば好かれるかといろいろ考えてはいるのだが、しつこくするのもどうかと思い、少し躊躇してしまっている。




「え……」


なんだ、これは。。


引っ張って連れてこられた部屋は、様々な植物が置いてある、いわゆるグリーンルームだった。

その一角にある1つの植物を前にして目を瞬かせた。


それはなぜか虹のような光をオーロラのように放っている白い花だった。



「凄い綺麗…何これ?」


「サンカヨウ」


聞いたことのない花の名だ。


「水に濡れると透明になる花なんだぜ」


「え!透明に?って、いやその前に、なんでこんなに光ってんの?!」


「これさ、実は何ヶ月も前から美乃里がいじってた花なんだ。何がしたかったかよくわかんねぇけど、あいつの才能の一部かなんかじゃない?」



あの車椅子の喋らない子が??

てか花を咲かせる才能?それとも光らせる才能?

え、そもそも何これ?



「どーだ、驚いただろ!」


「驚くよふつーに!初めて見たよこんなの」


「あいつあんま喋んねぇから結局これがなんなのかよくわかんねぇんだけどな。とりあえず枯れないらしいよ」


「へぇ枯れないってのもすごいなぁ。ていうか、志門くんとはお喋りするんだね。あの子俺とは一切口聞いてくんないんだよ」


「まぁー、そーだろうね。あいつ相当気を許した奴じゃないとウンともスンとも反応しないんだ」


なるほどそっか…

結構長いこと話しかけてきたはずだけど、まだ俺は受け入れられてないんだなぁ…


そう思うとなんだか普通に落ち込んできてしまった。

しかし、この不思議な花を見ていると、妙に幸せな気分が心に満ちてくる感覚がする。

なんだろう……不思議な気分……

疲れが取れる感じがするっていうか。



「あ、そうだ。志門くんは何か夢とかあるの?」


ふと顔を上げて問いかけると、志門は目を丸くしたかと思えばまた鋭くなり、低く落ち着いた声色で答えた。


「……ねぇよ。んなもん」


「え……あ…そう…」


彼にしては驚くほどゆっくりした暗い口調だった。


「なぁ、そういうのさ……」


そして花を見つめたまま、またゆっくりと口を開いた。


「そういうの、あんまここの奴らに聞かねぇほうがいいぜ」


志門のその雰囲気は、オーロラの花を前にして鳥肌がたってしまうような妙なものを纏っていた。

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