第3話 由良真奈美

「光お兄ちゃん!」


真奈美は光を見た瞬間、太陽のような笑顔でベッドから起き上がった。

両手には、以前光が真奈美の誕生日に作ってあげたクマのぬいぐるみが抱えられている。真奈美はいつもそれをなによりも大事そうに肌身離さず持っているのだ。


「真奈美ちゃん今日はねぇ、いいもの持ってきたんだ!」


光はカバンの中から折り紙でできたクマを取りだした。

実は光のクラスメイトに折り紙の天才がいる。

彼は頭に思い描いたものをなんでも紙で作ることが出来るという才能がある。

「俺男なのにこんなゴミみてぇな才能しかねぇんだぜ?マジで恥ずいぜ」と言いながら光が頼み込んだクマを一瞬で作り上げていたのを思い出した。


「こんなん出来ても別にモテねぇし」


「波多野くんまさかモテるモテないの視点でいつも他人の才能評価してるわけ?」


「当たり前だろ!それ以外なんの利点があって才能なんか!だいたい才能才能ってよぉ、自分に合った職を見つけやすくするためだとか何も出来ない人間を無くすためだとか、少しでも万人が生きやすいようにって国が定めたもんだろ?でもなそれって裏を返せば、国が国民を良いようにコントロールして国力を上げるって戦略だぜ?」



エンパワメント計画……それは個々に潜在的に眠っている才能を、成長に従って強制的に引き出す注射を、赤子の時に必ず打つというものだ。

これはある時を境に国が定めたものである。



波多野の言うように、確かに実際この特殊なエンパワメント接種に反対の派閥もいる。

たまに都内中心にデモなんかも巻き起こっていたが、何があったのか知らないがここ最近はめっきりなくなった。



「こんなゴミ生成機みてぇなことやってられるか!なんの職人になれってんだよったくよぉ」


「ゴミって…。いや俺はホント凄いと思うけど。学びたい人もいるだろうし、パフォーマンスの現場とか施設の先生やイベントとか、」


「はっ?全くキョーミないね。そもそもなんで才能自分で選べねぇんだよ」


「まぁ、それは俺も思ったことあるけど…そんなことしたら絶対に偏っちゃうからなぁ」


「あーあー、俺にもギターとかサッカーとかファッションセンスなんかの才能でもあればなぁ〜」


「…………。」


そう。こんなふうに。


ベタすぎて失笑してしまった。



とにかく彼はよく愚痴を漏らしてはいるが、光からすれば裁縫よりもよっぽど珍しく羨ましいと思える才能だった。


これなら子供たちが俺のマスコットや巾着や飾り物なんかより喜んでくれると思い、「一緒に病院に来ないか?」と誘ったのだが「ガキ苦手なんだよ」と一言で片付けられてしまった。

こんな子供受けパーフェクトな才能があるのに非常に残念極まりないと光は思った。

そういった意味では、まぁ俺は子供好きで良かったなぁとも。



「わぁぁあ!クマちゃん!!すごぉおい!」


予想通りの真奈美の反応に光は満足そうに笑う。



「この素晴らしい反応を、あいつにも見せてやりたいよ、全く…」


ヤレヤレといった顔でつい呟いてしまった。

使えないだの役立たずだのと散々愚痴っているが、自分と同じで、使いようによってはどんな才能も必ずこうして喜んでくれる者がいるはずだ。一見するとなんの価値もないようなものが、ある者にとっては絶対に必要なものなんじゃないかと、光自身も気付いたのはここ最近だ。



「お兄ちゃんが作ったの?!」


「ううん、俺の恥ずかしがり屋の友達」


「へえ、すごいなぁ。他にもいろいろ作れるのかなぁ?」


「あぁなんでも作れるんだ。他に作って欲しいものあったらまた頼んでみるよ!何が欲しい?」


「じゃあ光お兄ちゃん!」


「え」


間髪入れずに一瞬も迷うことなく即答したそのリクエストに目が点になってしまった。


「あ……お、俺ですか?」


「うん!!だって、毎日会いたいもん!」


その満面の可愛らしい笑みに、つい赤面してしまった。


そ、そんなん…いつか彼女に言われてみたい言葉ナンバーワンじゃないか!!

って俺、5歳児相手に何赤くなってんだよ気持ち悪い!


しかしそんな屈託のない眼を向けられるとYES以外なにも出てこない。


「う、ん。頼んでみるね…」


「ほんとー?!わーい!!」


「ま、まぁなんでも作れる奴だからできないことはないと思うし…多分。」


いけんのかなぁ俺の顔って。

まぁいけないことないよな。問題は変な顔にされないかどうかだけど。



そして、新しい折紙たちを取り出し、

真奈美と遊ぶことにした。


「ごめんねー、俺さ、ホント簡単なのしか教えてあげられないんだよー」


そう言いながら真奈美に鶴を教えていく。

5歳児には高度過ぎると思うが、光は定番のこれくらいしかわからない。

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