表と裏

水無月

短編

 東の国にのちに英雄となる男が現れた。

 彼は、貧しい人にお金を、奴隷には人権を、子供には教育をあたえた。

 人々は彼を救世主と呼んだ。

 彼は、見返りを求めず、ただただ人助けをした。

 救われた人達は、彼のことを称え、信仰し、そしてそれは国中に広がり、宗教と化した。

 ある人は彼こそ救われるべきだと言った。

 ある人は彼こそが聖人だと人々に説いた。

 ある人は彼に地位を与えるべきだと声を上

 げた。

 彼は享年65歳でこの世を去った。

 国王から一対一で公爵の爵位を授かり、妻と子供に看取られて亡くなったという。

 妻と子は、彼が亡くなってから4日でこの街を去った。

 彼が爵位を授かっていたと国民に知られたのは彼が亡くなってからだった。

 自分の地位が高くなっても自慢することはなく、それを家族にも伝えていなかったらしい。

 その日から、彼が墓場まで持って行った話は数千にのぼると言われるようになった。

 ある人は彼はあの世で神になったといった。

 ある人は彼が亡くなったことを悲しみ、三日三晩泣いた。

 ある人は、、、



 彼が人を救うために使った金はどこからきていたのかを考えた。




 あるところに悪逆非道な男がいた。

 それは人とは思えない心をもち、人を苦しめることを娯楽としておこなった。

 貧乏な人から金を巻き上げ、その人らが亡くなる様子を悪魔のような笑顔で眺めた。

 彼の従者には毎日遊びとして拷問をした。

 働けなくなった者いや、働けなくなった物は、奴隷として売り出された。中には部位欠損をしていたものもいたという。

 それはそれは手足が捻じ曲がり痛々しい姿であったと。

 ある人は彼を魔王と呼んだ。

 5日後、その人は行方不明となった。

 ある人は彼を暗殺しようと考えた。

 その人は3日後、頭部を潰された状態で見つかった。

 ある人はこの国から逃げ出そうとした。

 次の日、その人は性別がわからないほど、黒焦げになって見つかった。

 彼は享年65歳で亡くなった。

 彼の家族は僅か5日で全員が暗殺された。

 ある人は彼は地獄に堕ちたと言った。

 ある人は彼が亡くなったことに歓喜し、街中にあった彼の像を破壊した。

 ある人は、、、



 彼が東の国で祀られているのを見た。いや、見てしまった。

 彼のことを信仰し、幸せそうに生きている東の国の民を。

 

 次の日、その人は、ナイフが腹に深く刺さって絶命した状態で見つかった。

 それは、他殺ではなく自殺だった。

 それを見た東の国の民は言った。



 「救世主様が生きていればこの方も助かっ

 ていたかもしれないのに…」

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表と裏 水無月 @askgo

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