第40話

摩訶不思議 四十章

一二三 一



化け物・・・この言葉でどんな事を

皆さんは想像しますか?


(一)

 「化け物」とは・・・デジタル大辞泉等には次のように書かれています。(抜粋)

動植物や無生物が人の姿をとって現れるもの。キツネ・タヌキなどの化けたものや、柳の精・桜の精・雪女郎など。また一つ目小僧・大入道・ろくろ首など怪しい姿をしたもの。お化け。妖怪。

今回は隆が実際に遭遇した「化け物」(隆はそう思っている)について話を進めていきたいと思います。

隆の言葉を借りると「化け物と妖怪は別のもの」だということです。

 隆が今回お話しする「化け物」に出会ったのは、サラリーマン当時の通勤電車の車中だったそうです。

これまでにお話ししてきたように、幽霊や心霊現象にはよく遭遇してきた隆ですが、化け物との遭遇はこの時だけだそうです。

 当時隆は大阪の北部から阪急電車で大阪一の繁華街、梅田に通勤していました。

阪急電車の宝塚線、石橋駅に電車が間もなく到着しようとする時に急に何時ものザワザワ感が湧きおこります。電車の車内はぎゅうぎゅう詰めとまではいかないものの、かなり混んでいて隆は窮屈な思いで立っていました。

「こんな時間に珍しいな。何があるんやろ。」と隆は周りを見ています。

ホームに電車が滑り込み、ドアが開き乗客が乗り込んできます。

その中に隆は自分の目を疑うものを見ます。

異様に大きな頭、それも犬かオオカミの様に隆の目には映っています。

そのものの息使いも聞こえてきます。

犬が全力で走った後にハアハアと洗い息をする。まさにそれで獣のハアハアという息使いが聞こえてきます。異様な口臭もします。

他の人の目にはどんな風に見えているのか隆には分かりません。

隆の直感が「これは人ではない」と警鐘を鳴らしています。

「これか。ザワザワ感がするのは。しかも強くなっている。」そう感じた時、その得たいの知れないものと目が合いました。

真っ赤に血走った目をしています。

どうやら隆の方へ真っ直ぐ向かって来ようとしている様子です。

荒い息使いもよりはっきりと聞こえ、異様に臭い口臭も息使いの旅にしてきます。

グングン隆に向かってきます。

真っ赤に血走った目で瞬きせず、ひたすら隆だけを見つめて。


(二)

得たいの知れないものが混雑している車内の人の間をぬって、少しずつ隆に近づいてきます。真っ赤に充血した目、洗い息使いで隆をずっと睨みながら。

一歩ずつ確実に近寄ってきます。

いよいよ隆のザワザワ感が強くなります。

この駅で車内は満員状態で隆は身動きできなくなっていたそうです。

隆は咄嗟にその化け物に念を送りました。

 「止まれ。それ以上俺に近付くな!」と。

するとその化け物はさらに血走った目を大きく見開いて隆を睨みます。

しかし足は停まりました。

その時隆は歯ぎしりのような「ギリギリ」という音を聞いたそうです。

化け物の動きが止まったのを見て、一瞬隆の樹が緩みました。すると化け物がまた近付いて来ようとしたので、再度隆はより強く念を送りました。

 「止まれ!それ以上俺に近付くな!」

またもや歯ぎしりのような音が聞えてきました。電車は動き出しています。

化け物は動きを止めて隆を睨んでいます。

隆は続けて念を送ります。

 「後ろを向け!こっちを見るな!」

化け物は隆を睨みつけながらゆっくりと隆に背中を向けました。

電車は次の駅に到着間近でスピードを落としています。隆は更に念じます。

 「次の駅で降りろ!次の駅で降りろ!」

強い思いで何度も繰り返し、繰り返し念を送ったそうです。

電車が豊中駅に到着しドアが開きます。

化け物は最後の抵抗のように、首だけを回して隆を睨みつけながら、人の波に押し出される様に車内からホームへと出ていきました。ドアが閉まり電車が発車します。

ザワザワ感は無くなりましたが、半端ない疲労感が隆に残っています。

 「あいつは何やったんやろ?」

隆の中で未だに謎として心の隅に残っているということです。

70歳を目前にした隆ですが、霊、幽霊の類には何度も遭遇していますが、隆の中で「化け物」と感じた事はこの件だけだそうです。

次章ではテレビ番組等でも時々取り上げられている「座敷わらし」についてのお話しをしたいと思います。

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