第28話

摩訶不思議 二十八章

一二三 一



二週連続で亡くなった方の霊体を

目撃した件をお話ししましょう。

それは隆の40歳代にあった

出来事だそうです。



(一)

当時隆は大阪の北部に住んでいました。

以前にもお話ししましたが、そのエリアは大阪では有名な心霊スポットがすぐそばに有ります。

 その日は隆にしては珍しく、車で仕事に出かけていたそうです。

山間を右に左に縫って走る道路(この道路も事故が頻繁に起き、幽霊の目撃談がよく語られています)を抜けて、団地へ入る道路へと車を走らせる。

 四か所ほど曲がるとアップダウンはあるものの長い直線道路。その長い直線道路の下り坂を半分ほどまで車を進めた時に隆はザワザワ感を覚えた。

車は登りに差し掛かって行く。

ザワザワ感が強くなってくる。

もう自宅まで1キロを切っている事も有って構わずアクセルを踏み込む隆。

急な上り坂を登り切り、緩やかな上り坂になる地点に信号がある。

隆の車が赤信号で停車した。

ザワザワ感は強くなっている。

 「こんな所でザワザワ感がすることは今までなかったのにな。なんでかな?」

この道は会社の行き帰りに朝晩歩いている道で、一度もザワザワ感を感じたことは無かったそうです。

時刻は午後9時30分頃で山間の団地なので車も余り通っておらず、人通りも無い。

 信号が青に変わり車をスタートさせる隆。信号から15mほどだろうか、隆の目に一軒の家が入ってくる。

隆の車は団地内の幹線道路を走っている。

その家の前にバス停があり、バスが停車できるよう道路が凹んでいる。

隆は自分の目を疑うようにそのバス停に車を停める。

その家の庭の南西の角に一人の老人がたたずんでいる。

それは男性で、白い着物を着て家をじっと見ている。隆のザワザワ感が強い。

その光景を見て隆は直ぐに理解した。

 「この老人は亡くなっている。この家の方で、亡くなって自分が過ごしてきた家に愛着が有ったのであろう。その家をしげしげと見ている。」

隆のザワザワ感は続いている。

隆には老人が俯いたように見えた。頷いたのかも知れない。

 次の瞬間老人の姿が消えていた。

隆のザワザワ感も消えていた。

数分後自宅に帰り着いた隆は家人に

 「今日〇〇前バス停の前の家で不幸が無かったか?向こうのご主人かおじいさんやと思うけど・・・」

「どうしたん?なんで知ってるん。」

「あの家のおじいさんが亡くなったわ。」

家人が応えます。

「やっぱりな。庭の隅っこに白い着物着て立ってはったから。」

「また・・・」


(二)

翌日その家ではおじいさんのお通夜が取り行われていた。

遺影を見つめる隆。やはり昨夜庭の隅で白い着物を着て家を見つめていたおじいさんがそこにあった。

焼香を済ませた隆をザワザワ感が襲う。

隆は何気なく吹き抜けのホールの上部を見上げた。ザワザワ感の正体がそこにあった。

ホールの天井の隅におじいさんの姿が浮いている。

隆は何かの本で「葬儀場の四隅のどこかに亡くなった方の魂があり、自分の葬儀の様子を見ている」と読んだ覚えがあった。

「それと同じか・・・」

隆は通夜会場をあとにした。


(三)

この団地の幹線道路は隣接する団地ともつながっていて、途中橋になっている。

この団地に移り住んで25年ほどが過ぎた頃

隆は突然「見えない・聞こえない」普通の人になったそうです。

「見えない、聞こえないってこんなに楽なんや。」と思ったそうです。

隆が勤めていた会社が有る事情で無くなった翌年の正月。

ふいに隆にザワザワ感が蘇ります。

「エッ?この感じ、三年振りやな。」

それは幹線道路にかかる橋の上で突然襲ってきました。

前方の橋の真ん中付近の歩道に何やら人らしき姿があります。

「ああ、これか。飛び降り自殺した人の幽霊が出ると噂になっているやつやな」と隆は思ったそうです。

隆にとっては久しぶりのザワザワ感でしたが何故か以前の様な恐怖は感じられません。

しかし、前方に立っている人は、これまでの経験上明らかに生きている人では無いように感じられます。

大きな花柄の白いワンピースの初老の女性と隆の距離が縮まります。

ザワザワ感が強くなっていきます。

隆はいつもの念を送ります。

隆の方へ初老の女性が一瞬向き直りました。

そして消え去りました。

なぜ見えない・聞こえないから見える・聞こえるに戻ったのか・・・

それは未だに分からないそうです。


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