第2話

※このページには 〔残酷描写〕 が含まれています。



村の半分が焼かれ、畑も家も何もかも炭になってしまった。

抵抗した村人たちはその場で無残にも切り殺され、逃げ遅れた村民も焼け死んだ。

残るのは兵士に従い、捕虜となった者たちだけだった。

他に残った村人がいないことを確認すると、兵士の1人が他の兵士に指示を出していた。

鎧の装飾の細かさから見ても、彼がこの軍隊の隊長なのだろうと誰もが理解した。


「今から選定する。足腰の弱った老人、仕事の出来ない子供ガキはこの場で切り殺せ!!」


その言葉に村人の全員が驚愕した。

そして、体を震わせ、母親は自分の子供を強く抱きしめ、老人たちは必死で逃げ出そうとした。

しかし、逃げようとする老人たちは、すぐに追いつかれ、その場で背中から切りつけられた。

確実に絶命させるために、最後には心臓を剣で一突きされる。

呻き声と共に老人たちの手足から力が抜けていくのが見えた。

恐ろしくなった村人たちはぎゅっと目を瞑り見ないように体を縮こませる。

それでも聞こえてくる、老人たちの叫び声や呻き声。

命乞いする老人の声も聞こえた。

しかし、選定された老人たちは容赦なく切り殺され、その死体を広場の端へ積み重ねていった。

広場から子供の泣き叫ぶ声が聞こえる。

幼子でも自分たちが命の危機にさらされていることに気が付いているのだ。

母親が必死に泣き止まそうとするが、赤子は泣き止もうとはしなかった。

そして、次から次へと赤子の鳴き声につられるように他の子供たちも泣き始めた。

それを見た兵士たちが、ちっと舌打ちをする。

戦場の子供の泣き声ほど、兵士たちを苛立たせるものはないのかもしれない。


老人たちの処分が終わると、今度は子供たちの選定が始まった。

母親は必死に我が子を守ろうとするが、抵抗すればその場で暴行を受け、無理矢理子供を引き剥がされた。

選定された子供たちは老人たちのように切り殺されはしなかった。

一か所に集め、他の兵士が掘った深い穴の中に入れられていく。

子供たちは穴の中で必死に母親の名前を叫ぶが、そんな彼らを助けられる者などいやしない。

親たちはただ泣き叫ぶ我が子の声を聞きながら必死に謝り、堪えるだけだった。

そして、エンジュの選定される順番となった。

兵士の1人がエンジュの前髪を掴み、見やすいように持ち上げた。

エンジュは痛みで漏れそうな叫び声を耐えながら、涙を流して堪えた。

兵士たちがエンジュの顔や全身を細かく見ていく。

もう12歳だというのに、低い背丈。

手足は棒切れのように細い。

肌も汚れ、髪も乱れていた。

今にもウジ虫が湧きそうなぐらい汚れていた。

女の色香など微塵も感じさせない。

そんな少女を兵士たちは残念そうに見つめ、他の子供たちと同じように穴に放り込もうとした瞬間、村人の女の1人が兵士に向かって叫んだ。


「その子はもう立派に働けるよ。慰み者にならないからって、殺すのは惜しいとは思わないかい?」


見慣れぬ顔の女だった。

兵士は苛立ちながら、女の方へ振り向いた。


「選定は我らが決める! お前らに口出しする資格はない!!」


そう言いながらも、もう一度兵士はエンジュをまじまじと見つめた。

確かに低栄養で貧弱な身体ではあるが、もう少し育てば使い物になるかもしれない。

それに男手とまで行かないが、女の労働も必要だ。

兵士はエンジュを穴に入れるのを辞め、地面に投げ捨てる。

エンジュは痛みで声を上げた。


「わかった。お前は労働人として連れてってやる。精々、あっちで役に立つことだな」


兵士はそう言った後、残りの子供を処分するために縦穴に向かって歩く。

そして、泣きじゃくる子供たちを見下ろしながら、指示をした。


「埋めろ!」


その言葉がどれほど残酷な物か、村人の誰もが悟った。

母親たちの嗚咽にも似た叫び声が響く。

最初は村中に響くのではないだろうかと思うほどの子供たちの泣き声が、土が被さる音とともにか細く消えていった。

そして、最後に土を踏み固められた時には、村のどこにも子供の声は聞こえなかった。


「捕虜たちの手を縄で縛れ。明朝には一旦、こいつらを連れて本拠地に帰る」


隊長がそう叫ぶと、マントを翻してどこかに行ってしまった。

残った兵士たちが、村人一人一人の腕を縄で縛り、逃げないように他の村人と縄で繋げておく。

全ての作業が終わると、見張りを4人だけ残して、他の兵士たちも散っていった。

兵士4人だけなら、村の男たちで倒せるかもしれない。

しかし、村人の誰一人として歯向かう気力など残っていなかった。

多くの村人が家族を目の前で殺されたのだ。

生まれたばかりの赤ん坊も、村で駆け回っていた子供たちも、自分たちを愛してくれた両親たちも。

労働力にならない村人は全員殺された。

ここで何かを起こせば、自分も同じような目に合う。

自分たちだけではない。

残された他の家族も殺されるかもしれない。

彼らは誰もが絶望の上に立たされ、無気力に陥っていた。


「あんたこそ、あの穴に埋められれば良かったんだ」


エンジュの耳にかすかに聞こえるカルミアの声。

アネモネはカルミアの胸の中で声を殺して泣いていた。

カルミアにとってエンジュはいつも邪魔な存在だった。

労働力になるから、それだけで両親のいないエンジュを引き取ったのだ。

姪っ子と言っても、愛情の一欠けらも感じない。

この村でエンジュの命を惜しむ者などいないのだ。

そのはずなのに、村人に交じって見慣れぬ顔の女がエンジュを助けた。

彼女の目的が何かはわからない。

けれど、親切心などという感情からではないだろう。

カルミアはアネモネをきつく抱きしめながら、女を睨んだ。

しかし、女の方は全く気にしていないのか、カルミアに見向きもしなかった。

ここでは見張りの兵士の目もある。

村人たちはただ黙って、明朝を待っていた。

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