いいわけの芸術

ボウガ

第1話

有名俳優Aさん、遅咲きで、30代から人気がでた、彼には弟のBさんがいる。

もともと、父親が有名な役者で、その死後、財産はほぼ弟に受け継がれた。そのことをねたんでいたAさんは、弟にちょっかいをだしたり、ネットでアンチ活動やら誹謗中傷やらをしていた。


実際Bさんはほとんど目立った仕事もしておらず、家を受け継ぎ、バイトをしたり、友人の仕事を手伝ったりと自由な生活をしているようだった。それに、親しい人間には”作家をしている”と嘘をいっているのがひたすらむかついた。


「俺は、遺産もほとんどもらえず役者として成功もせず、苦労もしているのに、あいつは悠々自適に遺産生活で、芸術を言い訳にしてのんきにくらしてやがる」


その頃役者として成功できず鬱屈した気持ちばかりが溜まっていた彼は、弟への怒りを芸にぶつけていた。


 しかし、自分がそこそこ仕事がもらえ始めたころ、Bさんは悪化の速いガンで亡くなった。そして、入院生活の見舞いその間に、母親から語られ、すべての真実を知らされることになる。

「お父さんは、亡くなる前に大きな借金を抱えて、それはもう、財産の倍ほどもあったわ、それでもお父さんは、お前にはできるだろって、Bをたよって遺産を相続してくれって遺書にね……」

「そんな、バカな!!どういう事だよ!!あいつが何をしたっていうんだ」

「あんたには黙っててっていわれたけど、あの子、高校生の頃からプロの作家だったのよ、あんたも知っているあの本もあの本も、彼の小説よ、あんたはずっと家に引きこもってるとおもってたんだろうけどね、必死に働いていたのよ、そしてその努力の末に、借金はなくなり、私にも財産を残すって……」

 Aさんは、頭に衝撃が走った。


 そしてBさんが亡くなると、張り合うものもなくなり、やがて自分が知らなかった真実を教えられたことで絶望し、様々な霊媒師を頼ってあるいていた。ほとんどが偽物だったが、ある高名な霊媒師のところにいくと、その人は弟の存在や自分の後悔をとうとうと語り、そして言い当て、このように続けた。

「たしかに、弟さんはついているがあんたを一切恨んでもいない、それどころか見守っている、あんたは最近才能が認められるようになっただろうがこれからもっと花開くだろう、なんせ、才能ある弟さんが、あんたの後ろであんたを助けているからねえ」

Aさんは涙を流した、彼にとっては、それは、自分の罪を自覚させられるほどの強烈な罰だった。


 その罪を糧に実力を発揮し、それからほどなくして、大人気ドラマに出演、瞬く間に人気俳優となり、芸能界に名を残した。そして彼は、長い人気を保ち続け、78歳でなくなる前に、インタビューでこう語った。

「私は弟の苦労をしらなかった……自分の浅ましさに腹がたつ、だから家族には、辛いことがあれば相談をしてくれるようにといつも伝えている、まさか、遺産を継いだ人間が苦労をしているだなんて、まったくしらなかったんだからね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いいわけの芸術 ボウガ @yumieimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る