第5話

 勇者一行が帰ってくるその日、城はざわついていた。アナスタシアは不穏な空気を感じながらも顔には出さずに公務をこなし、その時を待った。そして兵士が謁見の間に兵士の声が響いた。

「女王様! ゆ、勇者様のご帰還です!」

「うむ、通せ!」

「はっ……それが……」

「ん? どうした?」

 謁見の間の扉が開くと兵士達はざわついた。レインが大きな棺桶を引っ張っている。立ち上がったアナスタシアの前までたどり着くとミンテアは静かに話し始めた。

「アナスタシア様、勇者一行、海王リヴァイアサンを撃破して参りました」

「う、うむよくやった。し、してそれは、それは何じゃ? まさか……」

 レインとハーシャは俯いている。

「激闘の中、バックはリヴァイアサンに剣を突き立てたのですが、最後の攻撃を受けついに力尽きてしまったのです」

「な……」

「海に投げ出されたバックをなんとか担ぎ上げてここまで連れて参りました」

 アナスタシアは玉座に座り込んだ。

「やむなくバックが持っていた所持金は私が受け継ぎました」

「ん?」

「リヴァイアサンが輝きながら消滅した際に得たゴールドも全て、やむなく私が受け継ぎました」

「……」

「よって所得税は今回はありません。私達の力が足りず、バックを助けられず……申し訳ございませんでした。失礼します」

「まっ待て!」

 アナスタシアは立ち上がった。そしてフラフラとバックの棺桶に近付くと棺桶にすがり付いた。

「アナスタシア様……」

「ミンテアよ」

 アナスタシアは顔を上げると捨てられた子犬のような目でミンテアに語りかけた。

「はっ……」

「我が国では生前に希望があれば本人が申請することで、死後家族でなくとも望んだ者にゴールドを相続しても良いことになっておる。しかし誰にゴールドを受け継いだとしても相続税が発生するのはもちろん知っておろうな?」

「えっええ、存じております」

 アナスタシアは捨てられた子犬のような目で話を続けた。

「そしてこの前お主達が旅立ってからすぐにワシが法律を変え、受け継いだ者が家族ではない場合、もともと払う予定だった所得税よりも相続税の方が高くなったのはもちろん知っておろうな?」

「え?」

「一般の国民には影響の無い金額じゃが、お主達のように五千ゴールド以上となると話は別じゃ。おそらく七十パーセント程徴収することになるじゃろう」

「ええ?」

「そしてワシが勉強した書物によると、お主のレベル(強さの指標。職業ごとにそれぞれ九十九段階ある)なら僧侶は死後一週間以内の死者を蘇らせる魔法を習得しているはずじゃがはて、メイの姿が見当たらぬな」

「……」

 アナスタシアは棺桶の前に座っておとなしくミンテアが口を開くのを待っている。観念したミンテアは杖をかざし、気まずそうに魔法を唱えた。

「リザレクション!」

 すると棺桶が光に包まれ、棺桶の蓋が音も無くスライドして床に転がった。やがて棺桶の中のバックが目を覚ますと、アナスタシアは棺桶の縁に両肘をついて両手にアゴを乗せ、バックを愛おしそうに見て微笑んでいた。

「おかえり」

「ただいま戻りました」

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