第2話
「今日は勇者様ご一行が来る予定でございますね」
ジイがアナスタシアに話しかけた。
「むっ? あやつらしばらく見なかったがどこまで行っているのじゃ?」
「確かドルコアの洞窟を攻略中だったかと」
「ほう~! もう新大陸までたどり着いておったのか!」
魔王を討伐する為に旅立った勇者バックは、盗賊のレイン、僧侶のミンテア、魔法使いのハーシャというメンバーでガンガン進み、順調に攻略していき、現在魔王への道のりを半分ほど消化した所だという。ある程度進むと女王のもとへ帰還して報告することになっている。
「しかし盗賊か……勇者のパーティーに犯罪者を入れて本当に大丈夫なのじゃろうな? 戦士でなくて良いのか?」
「蛇の道は蛇、旅には善き者だけではまかり通らないこともございますから。それに義賊でございますゆえ、道中で悪さをする心配もございますまい。なかなかしたたかな相棒のようです」
「ふむ」
その時兵士が謁見の間に入ってきた。
「女王様、勇者様のご帰還です!」
「おっ! 通せ通せ!」
以前見た時より幾分たくましくなった勇者バックを先頭にパーティーが謁見の間に入ってきた。
「お久しぶりでございますアナスタシア様!」
「おおう! 無事であったか!」
勇者達が玉座の近くまで来るとアナスタシアはガバッと立ち上がり、ツカツカと歩いて行き勇者に抱き付いた。
「アアアアナスタシア様!」
「心配しておったぞ~!」
若き勇者バックの顔は真っ赤だ。桜色の髪、透き通るような白い肌、ふわりと香る石鹸の匂い、そして王国史上最も美しい女王と言われている二十二歳のアナスタシアに抱き付かれて嬉しくないはずがない。いかに真面目なバックでもこの瞬間を毎度楽しみにしていることぐらいミンテアとハーシャはお見通しで、二人がコッソリ歯ぎしりしているのをレインは楽しそうに眺めていた。アナスタシアは体を離すと玉座に戻り、バックの腰に差してある見事な剣を見ながら報告を聞くことにした。
「ドルコアの洞窟に入った所じゃったな?」
「はい。その奥に潜むファイアドラゴンを撃破しました」
「おお! ついにファイアドラゴンを撃破したのか!」
「はい。前回は火力が足りずやむなく撤退しましたが、先日購入したこのドラゴンキラーでようやく勝つことができました」
アナスタシアは頷いて苦労をねぎらった。
「そうかそうか大変だったじゃろう。ドラゴンキラーはとても強い剣と聞く。のうジイ?」
「ええ。さぞや苦労してゴールドを貯めたのでしょうな」
「実はドルコアの洞窟付近にゴールドゴーレムがいまして。奴を倒すと三千ゴールドも手に入るのです。そのおかげで割と早く装備を整えることができたのですよ」
「ほお~そうなのか! ゴールドゴーレムが! 確かにミンテアの耳飾りも新しく新調しておるしの?」
ミンテアは自分の耳飾りまで見られていたことに少し驚き、えっええそうですとあいまいに頷いた。
「マジックポイント(魔法を使うのに必要な魔力。無くなると宿などで休まなければしばらく魔法を使えない)が自動で回復するという素晴らしいアクセサリーなんです。周囲に敵がいない時だけですが」
アナスタシアは微笑んだ。
「マジックポイントを回復するじゃと? すごいのぉ! しかもかわいい耳飾りじゃ! 上品なミンテアによく似合っておるな」
「そそそ、そんなことありませんわ」
ミンテアは嬉しくて赤面している。
「現在最強の装備で固めたのですが、それでもゴールドがいくらか余りましたよ!」
「いくらじゃ?」
「え」
「いくら余っておるのじゃ?」
「え、ああええと……十万ゴールド持ってます」
「そうか」
しばし間があった。
「そうなると少しまずいじゃろうな?」
「え」
「お主は勇者とはいえこの国の国民じゃ。すると年が明けた今、お主が稼いだゴールドには所得税がかかるじゃろう?」
「え?」
「確かこの国は稼ぎが五千ゴールドを超えた者には五十パーセントかかるんじゃったなジイ?」
「おっしゃる通りでございます」
「お主は兵士出身だから本当は買い物をする前の稼ぎから取らねばならんのじゃがのう。今回はがんばったことだし、特別に装備を買った時に使った金には目をつむっておいてやろう。その代わり今回の行程で稼いだ現在の所持金から税金を即日徴収するとしよう。メイ! おるか!?」
「ハッここに!」
勇者達が立っている横の柱から三人の兵士を連れた赤毛のポニーテールの女性がすっと現れた。太いズボンに括り付けられている革のベルトにそろばんや手帳が差さっている。
「勇者の所持金を調べ所得税を徴収せよ!」
「ハッお任せください! ……レインが隠し持っているゴールドと合わせて計算するとおそらく七万ゴールドになるかと!」
「なっ七万!? ちょっと待ってくれメイちゃん!」
「問答無用!」
アナスタシアは立ち上がり、これにて報告は終わりとばかりに右腕をバッと突き出した。
「次は夢見の塔じゃ! 抜かるなよバック!」
「ウワー!」
勇者達の悲鳴はメイ達に引きずられ、扉が閉まった所でプッツリと途切れた。
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