第56話「もうかわす必要はない。ここからは俺のターンだ」

「つまりだ。天使炉とつながったことで得られる無限のパワーを使えば、君の固有魔法の許容限界を突破して魔法を再展開することなど造作もない、というわけさ」


「なるほどね。わざわざ教えてくれてありがとよ。で、サファイアは無事なんだろうな?」


 自信と余裕の現れだろう。

 隠す気もなくペラペラと種明かしをするエンドレス・ウォーカーに、俺はダメ元で尋ねた。


 天使炉はサファイアの中にある。

 勝手に天使炉を稼働されて、今サファイアはどういう状況なのか。

 車の中は静かなままだから、何もないとは思うのだが……。


「心配性だね。そういえばお父さんをやっているんだったか。ははっ、家族ごっこもここまでくると、なかなか様になっているじゃないか」


「ごっこじゃない。俺はあの子の、サファイアの父親だ!」


「ああ、そうかい。ま、実験体334号なら大丈夫さ。少々壊れても、天使炉の魔力が身体を活性化させて直してしまう。まぁ、痛みくらいはあるだろうが、大したことではない」


「ふざけたことを! 言ってんじゃねぇ!」

 俺は爆発的な加速でエンドレス・ウォーカーの懐に飛び込むと、


「リジェクト!」

 魔法を無効化するのと同時に右の拳を叩き込んだ!

 しかし。


「魔法を無効化すると同時に攻撃する。まさに猿の浅知恵だね。ノット・エレガントだ」


「くっ、魔法を無効化された瞬間に、魔法を再発動したのか──!」


「何を驚いているんだい? 天使炉は無限のエネルギーを生み出し続ける。これくらいは、できて当然だろう?」


「くっ……!」


「もちろんこれらは全てオートで行われる。私はただここに立っているだけでいい。さあ、これで分かっただろう? いかに君の能力が優れていようとも、人間である以上、無限のエネルギーを持った機械には、何をどうやったって勝てないのさ」


「……」


「では今度はこちらから行くとしようか。時は金なり。だらだらとサルと遊んで時間を潰す趣味は、私にはないのでね」


 エンドレス・ウォーカーが無尽蔵の魔力を武器に、魔法戦を仕掛けてくる。


 俺はここは一旦、防御に徹することにした。


 守勢に回ることを選択した俺とは対照的に、エンドレス・ウォーカーは爆発の魔法を中心に、様々な攻撃魔法を無尽蔵の魔力で発動しながら、怒涛の攻撃を仕掛けてくる。


 俺は襲い来る無数の魔法を、しかしリジェクトで無効化はせずになるべく避けながら、避けきれないものだけを防御し、時には叩き落とすことで耐え忍ぶ。


「そらそらそらそら! なぜなにもしない? お得意のリジェクトはどうした? まさかもう魔力切れなのかい?」


 爆発魔法を回避した先に、雷撃魔法が唸りを上げて飛んでくる。


「だぁぁっ!」


 俺は足を思い切り踏ん張ると、急停止。

 稲光る破壊魔法をすんでのところでやり過ごした。


「ははは、お見事お見事。さすがはイージスの隊長さんだ。かわすための体術も超一流だね。でもいつまでかわし続けられるかな?」


 傲慢な笑みとともに、エンドレス・ウォーカーは芝居がかった様子で語りかけてくる。


 だから俺は言ってやった、


「もうかわす必要はない。ここからは俺のターンだ」


 と。

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