第55話 カケルvsエンドレス・ウォーカー

 ドンと音がして、俺の右拳がエンドレス・ウォーカーのみぞおちに突き刺さる。


 しかし俺はこの攻撃がまったくダメージを与えていないことを、即座に理解した。

 攻撃が何かに阻まれている。

 それは、


「魔法障壁か――!」


 エンドレス・ウォーカーの身体を覆った魔法障壁が、俺の拳と、拳から放出された魔力を受け止めていたのだ。


 俺がその場を飛びのくと、その直後に俺がいたところで魔力が盛大に爆発した。

 エンドレス・ウォーカーが、爆発系の魔法を発動したのだ。


「どうだい? なかなかのものだろう? 本人が何もしなくても完全オートで攻撃と防御を行ってくれる魔法機だ。これさえあれば魔法の素養のない人間も全て、一流の魔法戦士になることができる。今の私のようにね」


 子供が自慢のおもちゃを見せびらかすように、楽し気に語るエンドレス・ウォーカー。


 だがもしこんなものが世界にばらまかれたら、シャレにならないのは俺でなくても分かるだろう。

 犯罪者どもがこの便利すぎるアイテムを手にする前に、こいつもろともこの場で破壊する!


「たしかによくできているな。だがそれだけだ。悪いが魔法機それは俺には通じない――リジェクト!」


 俺は魔法を無効化する固有魔法リジェクトで、エンドレス・ウォーカーの身に着けた魔法機が生み出す魔法を無効化した。


「おおっ! これがアンチ魔法リジェクト! 素晴らしい! 本当に魔法が無効化されている! 実に素晴らしい魔法だ! エクセレント!」


「なにがエクセレントだ。これでお前を守る物はなくなった。つまりもうお前は終わりってことだ」


「はてさて、それはどうかな?」


 頼みの綱の魔法機が無効化されたにもかかわらず、妙に余裕ぶったエンドレス・ウォーカー。


 しかしもはや俺の攻撃を受け止められる物はないと、俺は判断済みだ。

 俺はエンドレス・ウォーカーに再接近すると、魔力のこもった拳をその身体に叩き込んだ。


 しかしまたしても、ダメージの通った感触が返ってこない。


「魔法障壁だと? バカな、リジェクトで完全に無効化しているはずだ!」


「おやおや。君と戦うにあたって、まさか私が何の対策もしていないとでも思っていたのかい?」

「なに――」


「アンチ魔法リジェクトは、魔力の結合を解くことで魔法の発動を阻害する。一方的に敵の魔法を無効化するチートスキルだ。しかしそれはあくまで一時的なもので、一定量の魔力結合を阻害すると、リジェクトの効果は失われる。魔法の許容限界というやつだ」


「まさかリジェクトの仕組みや、能力限界まで調べてるってのか?」


「もちろんさ。捨て駒たち相手に、何度もリジェクトを使用したのがあだになったね。アンチ魔法リジェクトのデータはしっかりと取らせてもらった。ははっ、そういう意味では、彼らは実に役に立つ石ころだった」


 エンドレス・ウォーカーがそれはもう可笑しそうに、笑みを深くする。


「だが、原理が分かったところで一体どうやったんだ? リジェクトの効果は強力だ。並大抵の魔力量じゃ、リジェクトの許容限界は突破できない――まさか……!」


 俺はそこで、あることに思い至る。

 リジェクトの許容限界をいとも簡単に上回る手段が、すぐ身近にあったからだ。


「その『まさか』さ。この魔法機はね、天使炉と空間魔力回路で繋がっているんだ」


「空間魔力回路? なんだそれは?」

 聞き慣れない言葉だ。


「文字通り、空間に構築された魔力回路のことだよ。電波と同じように、魔力を飛ばして天使炉とやり取りしているんだ」


「そんな技術、聞いたことがないぞ――」


「魔力を通すために物理的な線を通す――などという古めかしいやり方はナンセンスだからね。美しくない。だから発明した。私は科学者なんだ」


 太陽が東から昇ったと、まるでそれが当たり前であるかのように、あっさりと言ってのけるエンドレス・ウォーカー。

 どうやらエンドレス・ウォーカーという科学者は、本物の天才のようだ。


「その才能を正しいことに使えば、どれだけ世界はよくなることか。ま、お前みたいな心の壊れた人間に言っても無駄か」


 天は二物を与えず。

 神様はこいつの天才的な発明の才能を与えた代わりに、人としての心を与えなかったのだろう。


 まったく、困った神様だ。

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