第50話 茜色のプロポーズ(2)
「……」
しかしミリアリアは、俺のプロポーズを聞くと黙ったまま俯いてしまった。
さすがに突然すぎたよな、と少し反省する。
「悪い。いきなりこんなことを言われても困るよな。もちろん無理にとは言わない。サファイアのために、ミリアリアが自分を犠牲にする必要もない。俺は一人でも、サファイアを責任を持って引き取る。それは約束する」
サファイアにメロメロのダイゴス長官(おじじ)もいるし、イージスだってサファイアを見捨てるようなことはしないはずだ。
サポートは期待できる。
男手一つでの子育ては難しいだろうが、やってやれないことはないだろう。
なにより孤児院で親を知らずに育った俺に、サファイアを一人にするなんて選択肢はありはしなかった。
孤児院は悪いところじゃないが、子供のために最良の場所では決してない。
「……」
「ミリアリアにはミリアリアの人生がある。俺の決断やサファイアのために、ミリアリアが己の人生を捨てる必要はない。それもはっきり言っておく」
俺は最後にもう一度付け加えるようにそう言うと、押し黙った。
ボールはもう投げ終えた。
後はミリアリアからボールが返ってくるのを待つだけだ。
「……」
「……」
なんとも言えない、重苦しい沈黙が車内にたちこめる。
もちろんミリアリアを急かすことはない。
一生のことだから、ミリアリアが悩むのは当然だ。
俺にできることはただ待つことだけ。
すぐに答えが出なければ、後日だって構わない。
ミリアリアはしばらく俯いたままでいた後、顔をあげた。
ルームミラーに映ったミリアリアの頬は、リンゴのように赤く染まっていた。
そして今まで見た中で、一番ってくらいに優しい笑顔をしていた。
「カケルを一人になんてさせません。わたしは常にカケルの側にいます。イージスのエージェントとしても。一人の女性としても。サファイアの母親としても。それがわたしの答えです」
「それってつまり――」
「わたしもカケルのことが好きです。これからもカケルと共に歩みたいです。もちろんサファイアも一緒です。こんなに懐いてくれているサファイアを、今さら放り捨てるなんて、できませんから」
強い意思のこもった言葉だった。
「ミリアリア……俺の気持ちに応えてくれて嬉しいよ。一人でサファイアを引き取る覚悟はあったんだけど、ミリアリアに断られるのはそれはそれで悲しいからさ」
ミリアリアがプロボーズを受け入れてくれたことを、俺は心から喜ぶとともに、ホッと安堵した。
しかしミリアリアはそんな俺とは対照的に、少し呆れたような顔を見せた。
「と言うかですね」
「なんだ?」
「わたし、結構好き好きアピールしていたと思うんですけど、もしかして全くカケルに伝わっていなかったんですか? そこがちょっとショックなんですけど」
「好き好きアピールって、そんなことされたか?」
「その反応……本当に気付いていなかったんですね……」
「えっと……具体的には何をしたんだ?」
「何をしたもなにも、今日だってあんなに攻めた布面積の狭いビキニを選んだんですよ? パレオは透け感の高いものでしたし、パーカーだって全開にしてアピールしてました。普通、好意があるんじゃないかとか思いませんか? 何も感じなかったんですか?」
なぜか急にミリアリアに責められだした俺。
あれ?
おかしいな?
ついさっきまですごくいい雰囲気だったんだが?
「いや、ミリアリアはスタイルが良いから、派手なイケイケ水着が好きなんだな、実際よく似合っているなとは思ったぞ?」
「そうですか……」
俺の言い訳を聞いて、ミリアリアが大きく肩を落とした。
おおう。
ものすごくがっかりされてしまったぞ。
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