第49話 茜色のプロポーズ(1)
海からの帰りの道。
海岸線の道路も海も、夕陽で茜色に染まっている。
夕暮れる世界の中で、俺は軽快に車を走らせていた。
ミリアリアは後部座席にいて、遊び疲れてぐっすり眠るサファイアにもたれかかられながら、その頭を優しく撫でているのがルームミラー越しに見える。
その姿は本当の母親のようだ。
2人の様子を見ながら、俺は改めて思うことがあった。
夏にサファイアと水泳の練習をすると、俺はさっきサファイアに言った。
だが、それまでオペレーション・エンジェルは続いているのだろうか?
この任務が終わったら、その時は俺たち家族(仮)はどうなるんだろうか?
どうなるも何もない。
オペレーション・エンジェルが終われば、俺はまた別の任務へと駆り出される。
それがイージスのエージェントの仕事だ。
魔法犯罪は近年、増加の一途をたどっている。
善良な市民と平和な社会を守るため、俺たちに暇をしている余裕などありはしない。
だけど、だ。
「俺とミリアリアをこんなにも慕って心を許してくれているサファイアと、任務が終わったからとバイバイするなんてことは、俺にはとてもできない」
俺は小さな声でつぶやいた。
小声だったし、走行音やエンジン音で後部座席には聞こえていないだろう。
事実、ミリアリアは特に反応を示さずに、サファイアの頭を撫で続けている。
それはさておき。
言葉にすると実に当たり前で、分かりきったことだった。
既に俺はサファイアを大切な身内として認識していた。
となれば、悩む必要はどこにもない。
俺はサファイアが深く寝入っていることをルームミラーでしっかりと確認すると、ミリアリアに言った。
「ミリアリア。話がある」
「はい、なんでしょう」
ミリアリアが顔を上げ、ルームミラー越しに俺とミリアリアの視線が合う。
「すごく真面目な話だから、しっかりと聞いて欲しい」
「もぅ。どんな話だろうと、カケルの話をわたしはいつもしっかりと聞いていますよ。真面目な話というからには、イージスの任務に関してですか?」
小さく笑って答えながらも、ミリアリアはピンと背筋を伸ばした。
「そうだな。半分任務、半分プライベートな話かな」
「はぁ……」
俺の答え方が中途半端なのもあって――公私半々なのは事実なのだが――小さく首をかしげるミリアリア。
こういう話を、時間をかけてダラダラするのはあまり男らしくないよな。
「俺はあまり着飾った言葉は得意じゃないから、単刀直入に言うな」
「はい、どうぞ」
「俺はサファイアを正式な俺の子供として引き取ろうと思う」
「サファイアを、カケルが、ですか?」
ミリアリアがわずかに目を見開いた。
「ああ。それで、できるならミリアリアにも協力して欲しいんだ。アサルト・ストライカーズの副官ではなく、一人の女性として。ミリアリア、俺の側にいてくれないだろうか?」
「はぁ。それは――――えっ? って、ええっ!? ええええぇっ!? そ、それって――」
「まぁその、なんだ。気付いていなかったかもしれないが、俺はミリアリアを異性としても好いている。何にでも一生懸命で、料理が上手で、可愛くて、面倒見が良くて、車に乗ると人格が変わるのも、また魅力の一つに感じていてさ」
「あ、えっと……はい……」
「その想いはオペレーション・エンジェルで仮の夫婦になったことで、より強くなった。だからミリアリアさえよければ、俺と一緒になってくれないか?」
俺ははっきりと気持ちを伝えた。
夕焼けで茜色に染まる海岸線を、車で走りながらのプロポーズだ。
最高とは言わないが、まぁまぁ悪くないシチュエーションではないだろうか?
まぁその、この状況については狙ったわけでも意図していたわけでもなんでもなく、ただの偶然にすぎないのだが。
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