第43話「つめたい! でも、きもちいー!」
俺はビーチパラソルの下に置いた大きなカバンを
空気が抜けてペシャンコになっている、ビニール製のイルカのフロートだ。
その空気注入口から、
「フー! フー! フー! フー!」
勢いよく息を吹き込み始めた。
ビーチを貸し切ってもらうついでにダイゴス長官に頼んでみたら即、用意してくれたのだ。
さすがおじじ。
孫にはマジで甘い。
ペシャンコだった2次元イルカが、空気を送り込まれて、猛烈な勢いで3次元へと進化していく。
「フー! フー! フー! フー!」
「カケルパパ、だいぶ大きくなってきましたよ」
「わくわく!」
「フー! フー! フー!」
「カケルパパ、もう少しです。ファーイト♪」
「むらさめ、がんばれー! もうちょっと!」
「フー! フー! フー! フーーーーーー!!」
ミリアリアとサファイアの声援を受けながら、俺はついにイルカのフロートを空気でいっぱいにした。
「はぁ、はぁ、はぁ……。よし! 完成だ! はぁ、はぁ、はぁ……」
「むらさめ、よくできました!」
「おうよ。パパ、サファイアのためにがんばっちゃったぞー」
「かっこよかった、よ!」
「お疲れさまでしたカケルパパ。はいスポーツドリンクです」
「サンキュー」
ミリアリアから手渡されたペットボトルを、ごくごくと半分ほど飲み干す。
「いい飲みっぷりですね」
「ふぅ~~~、生き返る」
地獄に仏とはこのことか。
「かなり頑張ってましたもんね。まだ顔が真っ赤ですよ?」
「肺活量には自信があったんだけどな。さすがに外気温が30度ってのが地味に効いた。もはや春じゃなくて夏だろ」
「今さら思ったんですけど、空気入れも用意してもらえば良かったですよね」
「俺も思った。工兵科に行けば、空気入れなんていくらでもあるだろうしな」
「気が利かなくて申し訳ありません」
「気が付かなかったのは俺もだから、ミリアリアが謝る必要はないさ。ま、夫婦の今後の課題ってことで」
出来立てほやほやの急造夫婦らしいポカと言えるだろう。
「そうですね。少しずつ、2人で課題を解決していきましょうね♪」
「お、おう」
笑顔で言われたのに、なぜだか強いプレッシャーを感じてしまった。
なんでだろう。
不思議だ。
と、ちょうど話が一段落したところで、
「あの! いきかえる? ってことは! むらさめ、しんでた!?」
サファイアが心配そうに尋ねてきた。
「あはは。それくらい大変だったってことで、俺は死んではいないから大丈夫だよ」
「よかった~」
「心配かけちゃってごめんな。さてと、イルカも準備できたし、海に入ろうか」
「うん!」
3人で連れだって波打ち際まで行く。
しかしサファイアはそこで足を止めると、寄せては返すさざ波を、真剣な瞳でじっと観察するように見つめた。
「立ち止まって、どうした?」
「むむ……。うみのなか、つれてかれそう……」
どうやら少し怖いようだ。
「この辺り一帯は浅瀬だから大丈夫だぞ」
「それにパパとママがついてるわよ?」
「ほんと?」
「すぐ隣にいるから、何かあったらすぐに助けてあげるからな」
「手も繋いであげるわね」
俺とミリアリアは、間に立つサファイアの手を片手ずつ握ってあげる。
「うん……いってみる! みててね!」
サファイアは恐るおそるといった様子で足を水に入れた。
すると――。
「つめたい! でも、きもちいー!」
サファイアは俺とミリアリアの手を振りほどくと、走り出して太ももが浸かるくらいまでのところに行って、水に手を入れてぴちぴち、ちゃぱちゃぱと遊び始めた。
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