第28話「もう、やだなぁカケルパパってば。これくらいは安全運転の範囲内ですよ」

「ちょ、おい! 俺の指示をちゃんと聞いていたか?」


 俺は後部座席からミリアリアに指示の確認をした。


「はい? なにがですか?」

 するとルームミラーを通して、ミリアリアがキョトンとした顔を向けてくる。


「なにがって、俺は最初は安全運転するように言ったよな? なんで停車スペースから動き出すだけで、こんな派手な運転をするんだよ?」


「もう、やだなぁカケルパパってば。これくらいは安全運転の範囲内ですよ? どこかに事故る要素でもありましたか? 周囲に人はいませんし、車は完全にコントロールされています。よって安全です」


 ミリアリアはしれっと言いながら駐車場を出ると、一般道に入った。

 他の車の間をすいすいと抜け、曲がり角は軽くドリフトで流すなどして、軽快に車を走らせていく。


 そのまますぐに車通りの少ない海岸通りまで出ると、


「さぁ、ここからは気持ちよく行きましょう♪」

 言うが早いか、ミリアリアは強くアクセルを踏みこんだ。


 ゴファ!!

 ものすごい排気音とともに、V12ツインターボがうなりを上げ、周囲の景色が一瞬で置き去りになる。


「すごい! はやい! たのしー!」


 助手席でキャッキャとはしゃぐサファイア。

 どうやらジェットコースターという話を、素直に信じてくれたようだ。


 俺はリアガラス越しに後ろを見た。

 すると黒塗りの車が2台、必死で追いかけてくるのが目に入る。

 

「車が2台ってことは、多くて7,8人ってところか。これなら俺一人で余裕で倒せる」


 さぁ目標地点まで付いてこい――って、まったく付いてこれてないんだが!


 レースカーじゃあるまいし、V12ツインターボをアクセル全開で走らせて付いて来られる車は、公道にはまず存在しない。


「ミリアリアママ、少しペースダウンだ。後ろとの距離が離れすぎてる。このままだと余裕で逃げ切ってしまう」


「あっ、と。つい気持ちよくアクセルを踏んじゃいました。いけない、いけない♪」


 ミリアリアは反省した様子ゼロでそう答えると、進行方向に対して車体を左斜めに傾けて進む直線ドリフトをやり始めた。


「すごい! くるま、ななめに、はしってる!」

「直線ドリフトって言うんです。楽しいでしょ?」

「うん!」


「たしかに減速はしているんだが、俺は普通にアクセルを緩めろと言ったつもりなんだがな……??」


「結果は同じだからいいじゃないですか。ほーらサファイア、今度は反対向きで直線ドリフトをしますよ。えいやっ!」


 今度は右フロントを前にして直線ドリフトを始めるミリアリア。


「わふっ! ママ、すごい!」

「ふふっ、やっぱり車は、滑らせないと楽しくないですよね」


「駄目だコイツ、まったく聞く気がないぞ……」


 これ幸いと、完全にドライブを楽しんでいるだろ。


 もはや普段の素直なミリアリアはいなかった。

 ハンドルを持ってイケイケになった

『ミリアリア・ザ・ヒャッハー!』

 がそこにはいた。


「まぁこれはこれで、高速走行で車体をコントロールしきれていないように、見えなくもないのかな……?」


 いや、無理があるか。


「ジェットコースター! たのしー!」


 ま、サファイアも楽しんでるみたいだしな。

 奴らは奴らで、逃がすわけにはいかないだろうから、何がなんでもついてくるはず。


 ここは一石二鳥という事にしておこう。


 そうこうしている内に、ミリアリアは第3埠頭ふとうへと車を侵入させると、行き止まりで停止した。


 必死に逃げたものの、追い込まれてついに逃げ場を失った――と相手からは見えるだろう。

 もちろんここで止まるのも全て計算づくだ。


 少し遅れて黒塗りの車が2台、出口をふさぐように停車する。

 すぐに黒服にサングラスをかけた、いかにも「我々は悪者ですよ」と自己紹介でもしているような奴らが、わらわらと車から降りてきた。


「ミリアリアママは、サファイアと車の中で待機だ。俺が一人でやる」

「了解です。応援要請はどうしますか?」


「一応何かあった時のため、アサルト・ストライカーズには待機指示を出してくれ」

「了解」


「それと、こいつらを拘束するための回収班を回してもらってくれ」

「それも了解です」


「なにか、あったの?」


 俺とミリアリアのやり取りを聞いて、不安そうな顔で尋ねてくるサファイアに、俺はにっこりと笑顔を返した。


「あの人たちとちょっと遊ぶ約束をしてたんだけど、すっかり忘れてたよ」


「もぅ、カケルパパはドジっ子さんですね」

 何も言わずとも、さりげなく話を合わせてくるミリアリア。


「あの! むらさめ、やくそくを、わすれるの、よくないよ!」


「ははっ、ごめんな2人とも。すぐ終わるからちょっとだけ待っててくれな」


 俺は会話をしながら、敵が出てきたのを待ってから、遅れて車を降りた。

 敵の正確な人数と力量を把握するためだ。

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