第25話『ポメ太』と『ピースケ2号』

「うーん、うーん、なやむ……」


 あれこれ悩むこと1時間弱。


『わんわんぬいぐるみ』だけでなく、『にゃんこぬいぐるみ』や『うさうさぬいぐるみ』『きょうりゅうぬいぐるみ』など多角的に検討に検討を重ねた結果、


「きめた! サファイアは、このわんわんに、する!」


 サファイアはもこもこした毛が特徴的な、ポメラニアンのぬいるぐみを抱きながら、嬉しそうに宣言した。


「ポメラニアンか、可愛いじゃないか」

「なまえは、ポメ太、だよ!」


 悩んでいた間に、既に名前まで決めてしまったようだ。

 とても気に入ってくれたようで、俺としても嬉しい限りだ。


 しかしそのネーミングはどうなんだ?


「ぽ、ポメ太……? ポメラニアンって優雅な雰囲気の犬種だし、もうちょっとおしゃれな感じの方がよくないか? ほら、ポッキーとか、ポピーとか、ポワロとか」


「うにゅ? うーん、じゃあ、ポメ太ろう?」


「結局その路線なんだな……まぁうん、ポメ太も個性的で味があって悪くないか」

「うん、ポメ太!」


「それじゃあ、すぐにポメ太のお会計をしてきましょうね」


 そう言ってレジに向かいかけたミリアリアを、俺は呼び止めた。


「おっと待った。ミリアリアはどれが欲しいんだ?」

「ミリアリアじゃなくて、ママ!」


「ああうん、そうだったな。ミリアリアママはどれが欲しいんだ? サファイアに聞かれて、いくつか気に入ったのを挙げてただろ?」


「いえいえ、今日はサファイアのぬいぐるみを買いに来たので、わたしはいいですよ。ぬいぐるみを買うような年齢でもありませんし」


 ミリアリアは苦笑しながら胸の前で両手を左右に振った。


「遠慮するなって。あんなに楽しそうに選んでたんだ。こんな機会もなかなかないんだし、2人分をまとめて買おうぜ?」


「で、ですが成人女性がぬいぐるみというのも──」


「ぬいぐるみは親子の語らいに欠かせないアイテムだと、今日の買い物を見て俺は思ったんだ。なぁサファイア? サファイアもそう思うだろ? ミリアリアママにもぬいぐるみはいるよなぁ?」


「うん! ママといっしょに、おうちを、わんわんランドに、したいな!」

「って、サファイアも言ってるぞ?」


「もぅ、サファイアに援護を頼むなんて、ずるいですよカケルパパ? 断れなくなっちゃいます」


 ミリアリアは上目づかいで可愛らしく言うと、柴犬のぬいぐるみをピックアップした。


「あ、それってミリアリアママの実家にあったのと似ている気がする」

「わわっ、覚えていてくれたんですね」


「たしか……ピースケって名前だったよな?」

「名前まで覚えてくれてたなんて、嬉しいです」

「まぁな」


 ミリアリアの声は妙に弾んでいた。

 

 なるほど。

 俺は全てを察した。


 つまりそれだけあの子は、お気に入りのぬいぐるみだったってことだ。


 子供の頃の思い出を大人になっても大切にする――こういうところもミリアリアの魅力だと俺は思うんだ。


「というわけで、この子はピースケの息子のピースケ2号です」


「……親子そろってそのネーミングセンスはどうなんだ?」

「ええっ? 可愛いですよね? ねぇサファイア?」


「ピースケ2ごー、かわいい! ポメ太の、おともだち!」


「まぁ、気にならないならいいんだけどさ。じゃあまとめてお会計してくるな」

 歩き出した俺を、


「あ、待ってください。できれば、おままごとセットも買った方がいいかなって思うんです」


 今度はミリアリアが呼び止めた。


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