第18話

「お父様が認知症になられまして…ご存知でしょうか?」


は?どういう事?心臓が飛び跳ねてドキドキとしてきた。


「近隣の方とトラブルもありまして…」


なんだかもうついていけない。

はい、はい。わかりました。家族で話し合ってみます…。となんとか返事をして電話を切った。

デスクに肘を立てて文字通り頭を抱える。知らない番号だったが、地元の市外局番だったため出てみたら驚きだった。しかもトラブルだって?胃がきゅうっと締め付けられる。

ちょっと…やばい。


「すみません、ちょっと休憩してきます…。」

「はーい、っていうか大丈夫?早退しても大丈夫だよ?」

ありがたい…本当この人のこと大好きだ。人として。

「いや、少し時間がたてば大丈夫だと思うので…ありがとうございます。」


早足で仮眠室へ入る。

ほとんど物置になっているが今はとりあえず一人になりたい。

一畳だけ敷かれている畳に座る。心が落ち着かないので瞑想したい。スマホでお気に入りの誘導瞑想の動画をつける。


ーーーーーーー ふう。

なかなか集中した瞑想にはならなかったけど、よし。少し落ち着いた。


自分にはなかなか手放せないしがらみがある。

長男だからしっかりしないと。

長男だから両親を見ないと。

この考えから自由になりたいと思っている。でも両親のことは大切にしたい。これは自分の本心か刷り込まれた考えなのかは区別がつかない。だが今回のことは自分が先立って行動したいと思う。

とりあえず向き合ってみよう。辛くなったら誰かに助けてもらおう。向き合う力も助けを求める力も自分は持っている、と信じている。深呼吸をして父に電話をかけた。

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