グロテスク 1人読み用台本

荒屋 猫音

第1話

一人称変更○

言いづらいと感じたら語尾などは変更して読んでいただいて大丈夫です。



_____


カミソリの入ったアイスクリームみたい。



ツンと突き刺すような


冷たくて甘い。


彼女を一言で表すなら


きっとこの言葉が良く似合う。




-グロテスク-


彼女と出会ったのは

肌寒さが残る春。


季節外れの雪が降った夜だった。


夜桜と雪…

まるでこの日、この時間だけが、

別世界に飛ばされてしまったかのような

幻想的な景色の中、

そこに佇む彼女は

まるで天使か妖精か、

人ではない存在に見えた。


目を奪われた……


ただ、それだけの事だった……


目が離せなかった……


ただ、それだけの事だった……


だから、

彼女の冷たい視線を見た時

つい「あ、すみません」

なんて気の抜けた言葉しか出てこなかったのだろう。


彼女は静かにこちらに近付いてきた。


そして、冷たい視線をそのまま、

冷たい言葉を言い放たれた事に

僕は身動きが取れなくなってしまったのだ


「警察呼びますよ。人の事ジロジロ見て、気持ち悪い」


まるで鈴の音が鳴るような凛とした声が、

僕だけに向けられた事

まるでナイフのような鋭い言葉が

僕だけに向けられた事


まるで、カミソリの入ったアイスクリームのような

冷たくて甘い……


その声が、言葉が、その姿が、

一瞬で全てを攫っていった。


ただこの世界には僕と彼女だけ。


そんな妄想をしてしまうくらいには

僕には全てが衝撃的で、

続けて声を出すこともままならなかった。


カミソリの入ったアイスクリームなんて、

日常使う事のない比喩を、

どうしてこの時

ほとんど止まった思考の中から選び出せたのだろう。


どうしてこの時、

冷たくて甘い。

その一言を、そんなふうにねじ曲げてしまったのだろう。


到底理解の及ばない自身の思考。


それを思わせた彼女の存在。


それほどに衝撃を受けた事実。


しかし、やはり、


あの比喩は間違っていない……


後日、偶然あの夜の彼女を見かけた。


そこにはあの夜の冷たさはなく、

そこに居たのは、どこにでもいる普通の女子高生……

甘い顔で友人と話す彼女が、

そこにいた。


僕の視線に気が付いたのだろうか、

僕に視線をやる。


歓喜せずにはいられなかった。


その向けられた視線は、

あの時と同じ、

カミソリの入ったアイスクリームのような

冷ややかで甘い視線……


声をかけられて一瞬で冷たさを失った彼女の目は

暖かいものに変わり

今一瞬僕を見たあの目は消え

別人のようになっていた


きっと、これから

彼女を見る度に

僕の心は

あの冷たさを願わずにはいられない

あの甘さを求めずにはいられない


「あぁ、気持ち悪い……」


けれど、それでも構わない。


僕は、彼女なしでは


生きられないようになってしまったようだ……。


あの視線が、

僕を一瞬でも捉えるなら


僕は、彼女の存在に殺されたって構わない……

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グロテスク 1人読み用台本 荒屋 猫音 @Araya_Neo

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