六話 バカと部活と生徒会長 その壱
「離せこの脳筋! 私は普通の青春を送るんだ! それで、一年後にはお姉様とか呼ばれる予定なんだ! だから離せ!」
「祭華ちゃんの言う普通って、なんかおかしくない?」
「祭華は高校に入る前に『マリア様が○てる』と『スト○ベリー・パニ○ク』を浴びるほど見てた。おそらくこれが原因だと思われる」
「わたくしも好きですわ! そのアニメ! 推しは、推しは誰ですの?」
「どうせ、祭華の推しは巨乳」
「わたくしもですわ!」
私の首根っこを掴んだ茜先輩はそっちのけで、私がこの間ハマっていたアニメの話で盛り上がってる。この状況をどうにかしてくれる人は、私の周りにいないらしい。なんて非情なやつらだ。
変態すぎる。
「茜先輩、私に祭華ちゃんを」
「おう。逃すなよ」
私はフォミラに譲渡され、膝の上に乗っけられた。今はそれどころじゃないのに、フォミラの胸の中は妙に落ち着く。
「お、猫みたいになってる」
「さすがはフォミラだ。変態力と包容力は光るものがある」
変態力はギンギラギンに輝いてるけど。
「祭華はやっぱり、わたしよりもあの変態のことが好き。悲しい。悔しい。殺してやりたい」
「えっと、綴ちゃん。あなたが握っているそれは何かな」
「メリケンサック。昨日ド○キで買った」
「…………ド○キって、なんでも売ってるんだね」
もう逃げる気力もなくなるほど、フォミラと綴のやり取りは聞いてるだけで疲れる。
私はおとなしく、茜へ先輩の言うことに従うことにした。
なんか、もうどうにでもなれって感じ。
「祭華もおとなしくなったし、行くぞ、生徒会室」
そうして、私たち五人は地球を隕石から救う男たちのごとく、廊下を堂々とスローで歩いて行った。
あーあ。せめて、せめて生徒会長だけはまともでいてほしいな。こんなふざけた部活を却下できるくらいの常識だけでいいから備わっていてほしい。
「却下です」
私の身体のありとあらゆる臓物という臓物が大歓喜した。
常識人が、この学校に生き残ってたなんて……!
嬉しすぎる。私の中の喜びが空を舞ってる。天使がラッパを吹いてる。災害が起こる。
「だいたいなんですか部ルームって。舐めてるんですか? テニスしないてーきゅう部よりも意味不明ですよ?」
「どうしてわかってくれないんだ咲! あたしとお前の仲だろ!? そんくらい許してくれよ!」
私がまともな会長に感激していると、茜先輩は浮気野郎の醜い言い訳タイムみたいなものをはじめた。
「許せるわけないでしょう? 私を捨てて、こんなことをする人のことなんて……」
それにノリが良いのか、それとも素か、浮気された妻みたいなことを言い出す会長。
「だいたい、何をする部活なのかが全くわからないですわ。そんな部活、私じゃなくても却下するわよ」
「でも、美兎は許したぞ?」
「まあ、あの先生は、ちょっとあれだから……」
「美兎ちゃん、絶対何したんだろうね、会長さんに」
私も疑問に思っていたことを、フォミラがぼそぼそと呟いてくる。
「きっと先輩に捨てられた後、会長は先生に縋った。寂しさを埋めるために。愛を求めるために。だけど先生はヤるだけヤって会長を捨て去った。そして、会長は再び孤独に」
「会長、かわいそうに。私なら絶対会長にそんな酷いことしないのに。どしたん話聞こか? って言って、うんうん、それは先輩と先生が悪いね。って優しく包み込んで股開かせてあげるのに」
優しい言葉の裏にはいやらしい下心。フォミラは悩みを打ち明けてはいけない人の典型的な例を出してくれた。
でも、フォミラは素でそういうこと言いそう。
「…………とにかく、却下なのでもう帰ってください」
「わかった。活動内容を書いてから戻ってくる」
そう言うと、茜先輩はずかずかと生徒会室を去っていった。私たちも、それについていく。
「…………お願いだから、戻ってこないで」
切実な会長の願いは、誰にも届くことはなかった。
「というわけだ。何か活動内容について良い案があるならじゃんじゃん挙げてくれ」
部室に戻った私たちは各々席に座り、第一声を上げた先輩の方へ目をやる。
「そういう先輩は? 何か考えてないの?」
フォミラの膝の上に座り、机には肘をつき、明らかに歳上にものを言う態度ではない私が訊ねた。
「お前はバカか? 思いついてないからお前らに聞いてるんだろう?」
「うわ〜ん綴〜。脳筋筋肉バカの権化みたいなやつにバカって言われた〜!」
悲しさのあまり綴に飛びつく。それを綴は優しく包み込んで、バイオレンスな言葉を口にした。
「大丈夫。あの脳筋はわたしが黙らせるから。永遠に」
そうしてむくりと汎用人型決戦兵器のように立ち上がる綴。向かう先は先輩だ。
「やっぱり話し合いなんて必要ないって言うお前のその精神、好きだぞ!」
「今日こそ息の根を止めてやる」
いつも通り殴り合いをはじめる二人。そういうのは他所でやってほしいと思いつつ、私たち三人は会議に取り掛かることにした。
「さあ邪魔者が二人も消えたところだし、会議はじめようか」
邪魔者を先に消して会議を円滑に進める。私って天才。
「会議に入る前にさ、祭華ちゃん。一つ言っていい?」
「ん?」
「祭華ちゃんも、人に変人って言うこと、あるよね?」
「それと先輩のを一緒にしないでくれる?」
本当にこいつらといると話が進まない。そんな私の呆れの中、唯一の私の味方、黒峰さんが満を辞して口を開いた。
「あの……部活動内容は、適当なボランティア活動とかでどうでしょうか」
さすが黒峰さん。まともなこと言ってくれる。
「お、それ良いじゃん。フォミラ、どう思う?」
「う〜ん。確かに良い案だとは思うけど、いざ本番ボランティア活動ってなったら過半数以上が嫌、面倒くさいって言い出しそうだけど」
なんで私を見て言うのよっ。
「嫌。面倒くさいって言い出しそうだけど」
なんで二度も言うのよっ。
「確かにそうですね。先輩はともかく、先輩と戦っている方は、人を助けることに無関心ですものね」
互いの拳をぶつけ合う二人を眺める黒峰さん。
うん。確かに。綴にボランティアなんて言葉を向けたら「どうして助ける必要があるの?」って言いそうだし。先輩に関しては「ボランティアか。で、どこにいるんだ? この街を苦しめるマフィアって言うのは」って言ってマシンガン片手に戦いに行っちゃいそうだし。
「かわいい女の子がお返しで身体差し出してくれるって言うなら、私もやるんだけどね」
「見返りを求めたら、それはボランティアとは言わないのでは……」
「フォミラのことは気にしないでいいよ。ガンジーですらぶん殴るほど煩悩しかないやつだから」
「ガンジーだったらこれも修行か……って許してくれるよ」
若干呆れてるじゃん。
「確かに、彼は修行と言って数多の女と寝たという噂もありますからね」
「んなことはまあ放って置いてさ、他に案はない?」
脱線しまくった話を強制的に切り替える。
「そう言う祭華ちゃんは、何か良い案ないの?」
「あんたバカぁ? 思いついてないから訊いてるんじゃん」
「バカの権化にバカって言われちゃった」
「すごいデジャブですわ……」
それから数分程度、黒峰さんが案を出す度に私やフォミラがそれにダメ出し。私が出す案もフォミラがダメ出し。フォミラが出す案は私がダメ出し。と、全然良い案が出ない。
そうして、もう私たち三人は諦めかけていた。
もう最初に出てきたボランティアでいいんじゃないの? だって活動内容を書けばいいんだから。やらなきゃいけないわけじゃないんだからさ。
そんな卑怯な手を使おうとしたその時だった。一筋の光が、私たちの方へ差したのは。
「なら、ルームメイクってのはどうだ?」
扉辺りから声がする。声の主は、バチクソにやり合ってる二人の間を堂々と潜り抜けながら、私たちの方へと向かってきた。
唖然とする私たち。
別によく殴り合ってる間を通るなとか、そういうことに驚いてるんじゃない。私たちは、現れたその人に驚いたのだ。その人とは……。
「先生……」
そう。私たちの担任であり、この部活の顧問となる、美兎先生だ。
「どうせ部ルームとかいうバカみたいな名前の部活なんだろう? それなら、ルームメイクって言うのは結構良い案だと思うんだ。そう思うだろ? なあ、祭華」
私の首に腕を巻きつけ、それから頬をつまんできた。
そして先生の匂いを嗅いで「大人の女性の匂いや……」と呟くフォミラ。
何してんの?
呆れながら、とりあえず先生の言ったことへの返事をする。
「まあ確かに。ルームメイクって言えば漫画持ってきても『理想の部屋作ってんだこちとら!』って言い返せるからね」
「祭華ちゃん、ルームメイクって言うのは部屋の掃除したりすることだよ?」
え、そうなの? 衝撃の真実すぎるんだけど。
「まあ漫画は備品の補充ってことにしとくか」
「先生、思いっきり部屋を自分好みに変えるおつもりですわ……」
黒峰さんは音もなく愕然とした。
ついさっきまで真面目で尊敬できると思っていた自分たちの担任がこんなこと言い出したら、そうなるのも無理はないよね。私もはじめて会った時はこんな人だと……だと……。最初から不真面目な先生だったね。
「黒峰、お前はわかってないな。この世の中って言うのは卑怯なやつやクズ野郎が成功するようにできてるんだよ。それが資本主義ってやつだ」
先生の言葉に納得したようで、黒峰さんはこんなことを呟きはじめた。
「確かに、クズとかちょっと性格が悪い人の方がモテますものね」
…………私のことを見ながら。
ちょっと待って黒峰さん。
「私のこと性格のお悪いクソ野郎ですわとか思ってない?」
「とにかく、活動内容はそう書け」
「はい。わかりました」
その返事を聞いて安心したらしく、先生は「じゃあな」と部室を後にした。
「ねえ私の声届いてない?」
「私には届いてるよ、祭華ちゃん」
よかった。フォミラには聞こえてた。
「私って、クズなの?」
恐る恐る、訊ねてみる。
「なんで息を吸うように当たり前のこと訊いてるの? 祭華ちゃんはクズだよ?」
「祭華はクズ。あのクズ度はわたししかもらい手はいない」
その返答を聞いて、私は唖然とした。
じゃあなんで二人とも私が好きなんだよ。
★☆☆
それから、部活動内容の書いた書類を生徒会長しに行く途中。
「ねえ祭華ちゃん元気出してよ」
「大丈夫? おっぱい揉む?」
クズって言われてかなりショックを受けてる祭華ちゃんを、必死に宥める私と綴ちゃん。だけど、祭華ちゃんの機嫌は全く元に戻らない。大好きなおっぱいも揉まないって言うんだから、これはきっと重症だ。
「揉む」
あ、揉んだ。思ったより重症じゃないのかも。
「そういえばフォミラさん、ずっと肩にかけているポシェットはいったいなんなのですか?」
祭華ちゃんに揉まれて形の歪む綴ちゃんの制服を眺めていると、さゆみちゃんがそう訊ねてくる。
「これはね、四次元ポシェットって言うの。ほら見て魔法少女の変身アイテムだよ? すごくない?」
「…………は、はぁ」
何言ってんだこいつ、みたいな顔のさゆみちゃん。
あれ? 反応が悪い。というか若干引き気味な気がする。
魔法少女の変身アイテム見たら普通「すごい! かわいい! かっこいい! 惚れる! 抱いて!」って言ってくるものじゃないの?
「はぁ〜。最近の魔法少女はリングで変身するんだな」
茜先輩がぐいぐいっと顔を近づけてまじまじと変身アイテムを見る。
身体大きくてボーイッシュなのに良い匂いがする。これがギャップ。
「先輩は魔法少女アニメとかは観てましたの?」
「ああ。あたしはあれで正義の心を学んだんだ」
「そうなんですね! わたくしはあなたから正義を学びたいですわ!」
「お、おう……」
ずいずい来るさゆみちちゃんに引き気味の先輩。そんな光景を見ていたら、ついつい良いこと思いついてしまった。私天才かも。
「あ、そうだ。二人もなってみる? 魔法少女」
「え?」
「は? どうしたんだフォミラ、ポシェットの中から薬でも出たか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
思ったより反応が悪い。ていうか先輩はこの間魔法少女が戦ってるところ見てたよね。
先輩の記憶力を疑っている私の脳裏に、ピキンッと鋭い刺激が一筋通った。
この感覚は、きっと魔法少女の出番だ。
「先輩、さゆみちゃん、二人に、見てほしいものがあるんだ」
いい機会だし、二人には見せちゃおう。祭華ちゃんと綴ちゃん、そして私が魔法少女をやっているところを。
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