みかんの木の下へありがとうを
櫻井賢志郎
第1話
8月15日になると僕は決まって、庭のみかんの木に向かって手を合わせる。
「サムくん、今僕は頑張れているのかな。君がいてくれた時みたいに楽しく過ごせているのかな。でもね、見守ってて欲しいんだ。君に届くくらいに僕頑張って見せるから。」
そう心の中で、みかんの木の下に眠るサムくんに向かって語りかける。君がいなくなってからもう8年が経つね、僕はこうやって毎年君に、心の中でありがとうを送るよ。。
「キャン、キャン」僕は耳を疑った。少年野球から帰ってきたら茶の間から動物の鳴き声が聞こえたのだから。
恐る恐る、築50年ほどの古びた茶の間の扉を開くと、タバコのヤニで薄茶色になった部屋の中に、それはそれは真っ白な子犬が駆け回っていた。
「おかえり!可愛いでしょ、サモくん!」
お姉ちゃんの言葉を聞いて、この子犬にはすでに名前がある事を知った。どうやらサモエドという犬種だからサモにしたらしい。
すぐに野球道具を置いて、サモのそばに座る。すぐに真っ白な体を精一杯動かして近付いて来たのが嬉しくて、手を伸ばす。
「イタイッ」
噛まれた。
嫌われたのかと思ったけどそれが甘噛みと言われるものだとすぐに知った。
その日は一日中、サモが僕の家の主役だった。
まだ赤ちゃんで、出来るはずがないのに、必死にみんなでお座りだのお手だのって覚えさせようとした。
お父さんだけは、動物を飼う事がどういう事かをよく分かってた。散歩とか餌とか最初は楽しくても少しずつ面倒に感じる事だってある、それでもちゃんと世話しなきゃいけない、それに死んだ時は凄く悲しいんだってそんな事を言って、少し怒っていた気がする。
何日か経って、お父さんがサモをカゴに入れて外に連れて行った。
まだサモは外に出しちゃいけないと、獣医さんに言われていたから、みんなお父さんを責めたけど、なんだかんだお父さんもサモが来て嬉しいんだって僕は思った。
もう一つ、不思議なことがこの日はあった。
サモだったはずの名前がサムに変わっている。
僕はそれが気になってお姉ちゃんに聞いた。
「お父さんがね、サモって聞き取れなくてサムだと思ってたんだって、だからサムになった!」
訳がわからなかったけど、サモくんは今日からサムくんになった。
そしてサムは外にも出れるようになって散歩もするようになって行った。
ここからが僕とサムの愉快な日々の始まりだった。
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